研究課題/領域番号 |
23K01545
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
村田 潔 明治大学, 商学部, 専任教授 (70229988)
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研究分担者 |
折戸 洋子 愛媛大学, 社会共創学部, 准教授 (70409423)
山崎 竜弥 富山大学, 学術研究部社会科学系, 講師 (70896068)
福田 康典 明治大学, 商学部, 専任教授 (90386417)
アダムス アンドリュー 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (90581752)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | AI倫理 / 責任あるAI / 説明責任 / 機械学習 / ブラックボックス / 予測困難性 / 制御不能性 / 倫理実践 |
研究実績の概要 |
本研究は人工知能(AI: Artificial Intelligence) 倫理という研究課題に,ビジネスの視点を明示的に取り込んだ学際的研究を国際比較研究の枠組みで展開するものであり,機械学習ベースのAIをめぐるグローバルな競争環境において「責任あるAI (RAI:Responsible Artificial Intelligence)」を実現するための実行可能で有効な方策を提案することを目的とする。AI倫理は,これまで哲学者を中心に議論が進められてきており,AIの開発と利用の多くが競争環境の中でビジネス組織によって行われているという事実がほとんど考慮されてこなかった。本研究は,このAI倫理とビジネスとのギャップに架橋し,AI倫理研究の新たな局面を切り開くとともに,AIへの依存度を高める今日の社会・経済の健全な発展に寄与するものである。 2023年度においては,理論研究として,欧州連合におけるRAI研究の一環として作成され た報告書の内容について,ビジネスの視点から批判的検討を加え,現在の競争環境において,RAIを実現するための具体的方策を提案する論文を公表した。また,RAI実現のために企業が対応すべき課題と,ChatGPTなどの生成AIシステムがもたらす倫理問題の特質について講演ならびに研究報告を行った。これらに加え,企業がAIをはじめとする先端的な技術の開発と利用に関わる倫理問題や社会問題に対してどのような態度を有しているのかを明らかにするために,企業人(技術士資格を持つエンジニアと,特に専門的資格を持たない一般従業員)ならびにビジネス系学部で学ぶ大学生(3・4年生)を対象としたアンケート調査を実施した。この探索的研究の成果は,2024年度に国際会議報告として公表され,その後,英文論文として取りまとめられ,適切なジャーナルに投稿される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度に解明を目指した,(a) 競争環境におけるAIの開発と利用の実態と,それが引き起こしうる倫理問題・社会問題,(b) AIの開発と利用に対してどのような公式・非公式の規制や対応が必要なのか,については,すでに公表された論文の中で議論を行うことができた。さらに生成AIシステムの開発と利用に関わる倫理問題についても議論をすることができている。これらに加え,次年度以降に対応する予定であった(c) 民間部門ならびに公共部門の組織がRAIに対して果たすべき役割と,(d) 個人,とりわけICTエンジニアがRAIに対して果たすべき役割について解明するための手掛かりを得るために,2023年の7月~8月にアンケート調査を実施している。このアンケート調査の結果については,スペインにおいて研究報告を行っており,同国をはじめとする諸外国においても,同様のアンケート調査票を使った調査が2024年度に行われる予定である。 また競争環境における技術の開発と利用に関わる「責任」概念と,企業ならびに企業人による「倫理実践」の意味に関する理論研究にもすでに取り組んでおり,当初の計画を上回るペースで研究を進展させることができている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究の進捗を受けて,2024年度においては,上で述べたアンケート調査の結果について統計解析を中心に分析を進めるとともに,分析結果に基づくフォローアップインタビュー調査をアンケート調査に回答した技術士資格を持つプロフェッショナルエンジニアとビジネス系学部学生を対象として実施し,さらに企業倫理,技術倫理,情報倫理などの関連する科目を担当する,あるいはこれらの分野を研究する大学教員にもインタビューを行う予定にしている。 また,本研究のテーマの中核に存在している「責任あるAI」を解明するためのキー概念である「責任」についての理論研究を進め,技術の開発と利用に関わる組織が果たすべき責任とはどのようなものであるのかについて,新たな責任概念の提案も含めて論じる予定である。 さらに,AIをはじめとする先端的な技術の開発と利用に関わる組織における「倫理実践」のあるべき姿について,「倫理的に行為するとはいかなることか」についての理論研究を推し進め,一般によくスローガンとして掲げられることの多い(したがって往々にして具体的内容が必ずしも明確ではない)「Ethics by Design」という概念を超える形での提案を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度においてはアンケート調査の結果を踏まえて国内の有識者および関係者にインタビューを行う予定であった。しかし,海外で同様の調査票を用いたアンケート調査を行うための交渉を優先したため,インタビュー調査に十分な時間をさくことができなかった。2024年には,次年度使用額を利用して,主として国内でのインタビュー調査を数多く実施する予定である。
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