研究課題/領域番号 |
23K01566
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
田路 則子 法政大学, 経営学部, 教授 (00322587)
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研究分担者 |
浅川 希洋志 法政大学, 国際文化学部, 教授 (10299349)
五十嵐 伸吾 九州大学, 学術研究・産学官連携本部, 教授 (00403915)
鹿住 倫世 専修大学, 商学部, 教授 (00349193)
藤村 まこと 福岡女学院大学, 人間関係学部, 准教授 (10404039)
林 永周 立命館大学, 経営学部, 准教授 (10774416)
玉井 由樹 福山市立大学, 都市経営学部, 教授 (50547362)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 起業意思 / 起業家教育 / 自己効力感 / 起業家大学 |
研究実績の概要 |
本研究課題は二つである。 1.どのような心身メカニズムによって起業意思や自己効力感が高まるのだろうか。 本科研が始まる前まで行ってきた起業意思に関する研究は社会心理学に則っており、社会規範、態度、大学の環境が起業意思に影響があった。しかし、それらがどのように起業意思に作用するのかということや、高めるメカニズムは解明されていない。そこで、本科研はその突破口として、携帯端末とフィットネスバンドを駆使して心拍や歩数の生体データも測定して、社会心理学の変数と合わせることで、新たな方法論の確立を目指すことが目的である。2023年度に実施した起業家教育のイベントにおける実査のサンプル数は31人であり、解析中である。 2.アカデミック・スピンオフを技術シーズの提供者別に類型化した時、起業機会の認識から事業化に至るプロセスにどのような違いがあるのだろうか。北欧4国の起業家教育の代表校であるチャルマース工科大学は、教育もスピンオフも活発で成功しているという指摘がある。シリコンバレーやケンブリッジ型ではない、地方都市におけるスピンオフの輩出に大学がどのように関わっているのかに関心が集まっている。 チャルマース工科大学の起業家養成専攻の入学者は技術系の学部卒者が多く、若年起業家としてCEOになる。サロゲート型の場合は、技術顧問に発明者である研究者を置く。経営経験の乏しさを補うために、取締役メンバーに業界のベテランを置くこともある。一方、非サロゲート型は、研究者養成の博士課程やポスドクが発明者であり、CEOではなく、CTOの職位で創業者となっていた。その比較を研究論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二つの課題についての理由は次のとおりである。 1.どのような心身メカニズムによって起業意思や自己効力感が高まるのだろうか。 2022年度に収集したデータの分析によって探索的に仮説を抽出する作業を行なった。起業家教育イベントの3日間の流れの中で、集中力が上がるまたは下がる時間帯で心拍数が大きく上下することがわかった。また、チームにおけるコミュニケーションの円滑性やリーダーシップの発揮度が起業意思や自己効力感に影響することがわかってきた。そこで、2023年度は、調査票以外に観察を重視してデータを取得した。起業家教育イベント中の活動を、チーム別に細く記録した。サンプル数は31人であり、解析中である。 2.アカデミック・スピンオフを技術シーズの提供者別に類型化した時、起業機会の認識から事業化に至るプロセスにどのような違いがあるのだろうか。 発表した論文の要旨は以下のとおりである。スウェーデンのヨーテボリ市のチャルマース工科大学は起業家大学として知られる。大学を核に地域の技術シーズを活用し、地方都市ながら生存率が高く卓越したスピンオフを数多く輩出してきた。「サロゲート型」では、内外の技術シーズを発掘し、新たな製品サービスを事業化する。サロゲート型起業は、起業家養成修士課程の学生の経営チームに典型的である。「非サロゲート型」では、ポスドク等の研究者が経営者となり、自身の技術の事業化を目指す。サロゲート型も非サロゲート型も大学が投資やインキュベータ施設を提供し、地元のエンジェルや企業関係者や大学OB起業家等ベテランがメンターとなって若い起業家を支える。地道な資金調達を行い、経営資源を節約しリーンな組織体制を敷く。事例として紹介するライフサイエンス系2社では医師等の専門家を技術顧問にし、新しい治療の普及に尽力する。また、ライセンスアウトや特注製品の開発などにより複線的収益モデルを追求する。
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今後の研究の推進方策 |
「どのような心身メカニズムによって起業意思や自己効力感が高まるのだろうか」については、起業家教育イベントの3日間の流れの中で、集中力が上がるまたは下がる時間帯で心拍数が大きく変わることがわかった。主に、アドバイスをしてくれるコーチが来るコーチングタイムに集中しているかどうかが、その後のチームの活動の活発さや充実度に影響を与えることがわかっている。しかし、個人差があるために、心拍と起業意思や自己効力感の因果関係を解明することが難しい。ただし、チームごとの活動を記録しているため、定性的データを加えることによって、新たな仮説を抽出していきたい。 「アカデミック・スピンオフを技術シーズの提供者別に類型化した時、起業機会の認識から事業化に至るプロセスにどのような違いがあるのだろうか」については、チャルマースをベンチマークとして、サロゲート型起業と非サロゲート型起業の相違を明らかにする。それぞれの起業が増えて成長していくためには何が重要であるかを炙り出すことによって、日本政府や文科省が目指す、起業家大学とアカデミック・スピンオフの方向性に対するヒントや提言を導出したい。 追加として、日本の大学生の起業意思のマクロ分析を行う。2011年から続く国際的な起業意識調査GUESSSの2023年版に、日本の幹事として参加した。これは、日本の大学生の起業意思を国際比較し、起業意思に与える要因をマクロな視点で分析するプロジェクトである。この分析を2024年度以降に行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に開催された国際学会の報告に、健康上の理由によって移動ができなくなって、対面参加できなくなった。よって、旅費に相当する金額が繰り越されることとなった。2024年度以降に、別の学会報告を検討したい。
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