研究課題/領域番号 |
23K02004
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
樋口 智之 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (80597469)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | トノサマバッタ / 脂質 / 酸化 / 加熱 |
研究実績の概要 |
近年は代替タンパク質として昆虫の利用が注目されている。一部の昆虫には歴史的に食経験が積み重ねられているものや実用化の試みがされているが、多くの昆虫は利用にあたって有効性や安全性の検討が必要である。昆虫は見た目の抵抗感が強いことが食用拡大のボトルネックとなっている。したがって、喫食の際はそのままの姿ではなく、粉末化して他の食品に配合するような利用法が有効と考えられる。さらに昆虫の栄養特性がタンパク質供給源以外の長所が明らかになれば、食利用の可能性が高まる。そこで本研究は、繁殖力が旺盛なトノサマバッタに注目して、食用利用するにあたって加熱による乾燥粉末化による脂質酸化に対する影響や栄養学的機能性について明らかにして、実用化の礎を構築することを目的としている。 令和5年度は加熱乾燥による脂質酸化を評価した。油脂の品質評価の指標には過酸化物価、カルボニル価、TBA価、酸価、ヨウ素価を用いた。加熱温度は60~105℃の範囲でそれぞれ20時間実施し、その後粉末化したものを試料として使用した。その結果、トノサマバッタは80℃以上で加熱されると食用に適さないレベルにまで酸化が進行することが分かった。また酸化の進行に伴って不飽和脂肪酸量が低下することがヨウ素価とガスクロマトグラフィーによる脂肪酸組成の分析によって認められた。トノサマバッタの油にはオメガ3脂肪酸の一種であるα-リノレン酸が豊富に含まれているが、酸化が進行するとα-リノレン酸の量が低下することが分かった。α-リノレン酸は心臓病リスク低下作用をはじめとして様々な機能性が示唆されている脂肪酸で、その働きは同じくオメガ3脂肪酸で魚油に多く含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)と似ている。したがって、酸化の進行はα-リノレン酸を減少させるとともに、トノサマバッタの栄養価を低下させる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度はトノサマバッタ乾燥粉末の製造における最適な加熱条件を明らかにすることを目的として、様々な加熱温度による検討を行った。このことにより、80℃以下で加熱すると食用に適するレベルで脂質の酸化を抑制しながら乾燥させることが可能なことを明らかにした。加熱による抗酸化能に対する影響については明らかにしていないが、食用への応用および実用化の視点からは必須の要素ではない。引き続き検討するが、令和5年度の研究目的はおおむね達成したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度はトノサマバッタ乾燥粉末の糖・脂質代謝に対する影響を明らかにし、糖尿病、肥満、脂質異常症などといった生活習慣病予防に資する可能性について、マウスを用いて検討する。トノサマバッタにはα-リノレン酸を豊富に含む脂質を有する。α-リノレン酸は魚油に含まれるEPAやDHAと同様のオメガ3脂肪酸の一種で、血中中性脂肪低下作用、抗炎症作用などが期待されている。そこで本研究では、高脂肪食にトノサマバッタを配合した飼料を摂取させ、耐糖能試験、空腹時食後血糖値、血中インスリン濃度、血中アディポネクチン濃度を指標として糖代謝への影響、そして血中および肝臓中の脂質含量、脂質代謝関連遺伝子のmRNA量を解析して脂質代謝への影響を明らかにする。
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