研究課題/領域番号 |
23K02058
|
研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
神代 健彦 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (50727675)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
|
キーワード | ヒューマン・エンハンスメント / 学力 / 資質・能力 |
研究実績の概要 |
本研究は、国内外におけるヒューマン・エンハンスメントに関する最新の応用倫理学の知見を渉猟し、その成果をとくに学力論や資質・能力論の観点から吟味することで、近未来技術としてのヒューマン・エンハンスメントに対する教育学的な応答を行うための基盤を形成することを目的としている。 第1年目にあたる2023年度は、ヒューマン・エンハンスメントに関するアメリカの応用倫理学の研究を渉猟することを課題とした。結果として、①ヒューマン・エンハンスメント技術は、これまで教育学が課題としてきた人間形成の諸側面を補完ないし代替する可能性があること、②応用倫理学領域においては、その補完ないし代替を積極的に推し進めるべきとするヒューマン・エンハンスメント肯定派と、それらが人間社会の基本的価値を毀損すると主張する否定派が存在していること、③ただしそれらの対立図式は、個別具体的なヒューマン・エンハンスメントの対象や手法の設定によって大きく変動すること、が明らかとなった。 なお、こうしたヒューマン・エンハンスメントに関する基本的な議論の構図について整理・紹介することは、日本の教育学研究においても重要と考えられる。そのため2023年度は、当初の予定を一部変更して、研究内容の一部を書籍として公刊した。神代健彦・後藤篤・横井夏子『これからの教育学』(有斐閣、2023年)の第13章「テクノロジーを教育学する」の第3節「教育の次に来るなにか」がそれである。そこでは、2023年度に渉猟したアメリカの応用倫理学の議論を整理・紹介している。こうした議論は現在進行形で推移しており、これを継続的にフォローアップして日本の教育学界に紹介していくことの意義は大きいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、2023年度はアメリカの応用倫理学領域におけるヒューマン・エンハンスメントの議論状況について整理するという基礎作業を遂行する予定であった。その作業は順調に遂行された。具体的には、アメリカの応用倫理学領域におけるヒューマン・エンハンスメント肯定派と否定派という議論の構図を整理するとともに、それぞれのロジックについて一定の見通しを得た。 また、そうした基礎作業の確実な遂行に加えて、2023年度は、当初予定にはなかった研究成果の公表を行った(神代健彦・後藤篤・横井夏子『これからの教育学』有斐閣、2023年)。 研究の予想以上の進展により、その一部を成果として公刊できたことは、本研究が当初の計画以上に進展していることを示していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度以降も、当初の計画に沿って、ヒューマン・エンハンスメントに関する国内外の議論状況を整理するとともに、それらが日本の学力論や資質・能力論に与える潜在的な影響、インプリケーションについて検討していきたい。また、2023年度に研究成果の一部を公刊したことにより、この知見に対する研究者からの一定のフィードバックが得られたことは、今後の本研究の進展にも大いに裨益すると考えられる。2024年度以降も、研究成果の公表については継続的に試みていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた研究発表の一部がオンライン形式となり、旅費の一部に残額が生じる結果となった。他方で、今後外国で公刊が予定されている文献等の購入について、円安の影響により価格の上昇が予想される。そのため、2023年度の残額は2024年度以降の外国語文献の購入費用に充てる予定である。
|