研究課題/領域番号 |
23K02104
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田中 誠二 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (60561553)
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研究分担者 |
丸井 英二 人間総合科学大学, 人間科学部, 教授 (30111545)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 衛生教育 / 地区衛生組織活動 / 占領期/ポスト占領期 / 保健所改革 / GHQ/SCAP |
研究実績の概要 |
この研究は,戦後占領期/ポスト占領期における〈衛生教育〉に着目し,その理念や方法・手段の変遷を詳細に描き出すとともに,この時期に活発化した「地区衛生組織活動」と呼ばれる住民主体の地域活動に衛生教育がいかに寄与したか明らかにすることを目的としている. 令和5年度(研究第1年度)は,(1)占領下で実施された「保健所制度の改革」が衛生教育の全国的な普及・展開にどう影響したか,GHQ/SCAP(連合国最高司令官総司令部)文書や日本側資料の関連記述を収集・整理する作業を進めた.『保健所三十年度』(日本公衆衛生協会,1971年)などの記録から,“国民の理解と協力”に基づく新たな保健所運営とその拡充を目指して衛生教育が重視された背景を考察した.(2)戦後日本における住民の自主的・民主的な地域保健活動の展開を学術面から支えた宮坂忠夫(1922-2013)に着目し,彼の著作物を中心に検討を行った.宮坂は〈教える人〉から〈教えられる人〉へ,という一方向の(上下の)衛生教育ではなく,健康問題の改善を目指す協同的な活動を通じて人びとが〈共に教え・学び合う〉,相互作用のプロセスを重視した衛生教育を強調したこと,またコミュニティ・オーガニゼーション(Community Organization)や住民参加に関する研究を学際的に進め,戦後日本の地域保健に大きな影響を与えたことなどを考察した.この内容は,第88回日本健康学会総会(弘前)にて企画されたシンポジウム「地域医療と民族衛生の交差点」において報告した(演題名:「戦後日本の地域保健と民族衛生 ―『衛生教育』の展開を切り口に―」).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた研究内容はおおむね順調に進行している(一部は,研究第2年度に予定していた研究内容にも着手することができた).なお,今年度の研究は既に入手済みの史資料を用いた分析が中心であったが,次年度以降は新たな研究材料の探索・収集作業を並行して進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度(研究第2年度)は,占領期/ポスト占領期における衛生教育の理念や方法・手段の変遷について研究する.特に「衛生知識の普及・啓蒙」に重点を置く衛生教育が主流であった占領初期・中期の施策について,GHQ/SCAP文書や日本側資料(行政資料,衛生教育・公衆衛生に関する刊行物など)を中心に関連記述を調査するとともに,その後,地区衛生組織活動の萌芽・発展を受け強調されていく「実践を通じた学び」重視の考え方について,当時の実践報告や研究者・行政官らによる著書・論文などを中心に分析する. また,研究分担者と協力して,国立国会図書館(東京)等による史資料調査を進展させるとともに,研究成果の発表を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究は,既に入手済みの史資料を用いた分析が中心となった.計画していた国立国会図書館(東京)等での史資料調査を実施しなかったことから,次年度への繰り越しが生じた.研究を進めるために必要となる図書(古書含む)の購入や文献複写費などに充て,計画的に使用する予定である.
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