研究課題/領域番号 |
23K02119
|
研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
相馬 伸一 佛教大学, 教育学部, 教授 (90268657)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
|
キーワード | コメニウス / 初期近代 / 教育思想史 / 世界観 / 形而上学 |
研究実績の概要 |
令和5年度においては、コメニウスの最初の形而上学的著作とされる『第一哲学』(Prima philosophia)のラテン語原文からの翻訳にとりくむとともに、この作品の成立背景、コメニウスの諸作品との関係、そして、哲学史上の意義について考察した。 本作品は、コメニウスがポーランドのレシュノに移り、学校教育に携わりながら、彼独自の哲学構想であるパンソフィアの研究に着手した時期に著されたものである。出版には至らなかったため、長く見失われ、所在もロシア・サンクトペテルブルクに移っていたが、19世紀後半の近代的なコメニウス研究の成立のなかで、彼の著作として注目されるようになった。 コメニウスがこの作品を物した時期、彼は、言語を学ぶ教科書『開かれた言語の扉』(Janua linguarum reserata)が脚光を浴びた。しかし、当初から事物それ自体を学ぶ哲学を構想していた彼は、『事物(事柄)の扉』(Janua rerum)とも題される作品を構想する。その試みは終生繰り返された。ポーランド滞在中、イングランド渡航時の資料が現代に伝えられている。最終的には、死後の1681年、『開かれた事物の扉』(Janua rerum reserata)が発刊された。そこには、『第一哲学』以来の研究関心が結実している。 コメニウスの形而上学は、アリストテレスのカテゴリー論の影響下にあることは否定できない。しかし、彼が哲学の革新者の一人と見なしたイタリアのトンマーゾ・カンパネッラの影響もみられる。 一定程度信頼のできる訳文が完成したので、今後、他の作品との関係を検討していく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、とくに日本において、もっぱら教育著作をもとに理解されてきたコメニウスの思想を、その哲学、形而上学著作の精読に基づいて再考し、彼の哲学思想それ自体の教育的性格を明らかにすることを目的としている。 この目的を実現するためには、コメニウスの哲学、形而上学著作の原典に即した読解が不可欠である。幸い、コメニウス研究の先達の貢献と、研究成果を共有しようという学問的良心によって、後学者は、その恩恵に浴することができる。事実、コメニウスの哲学著作のうち、死後の刊行された『開かれた事物の扉』(Janua rerum reserata)やコメニウスの後半生の主著である『人間に関する事柄の改善についての総合的熟議』(De rerum humanarum emendatione consultatio catholica)の第3部の『パンソフィア』(Pansophia)は日本語で読める状態になっている。しかし、コメニウスの哲学思想の展開を示す他のいくつかの著作は、まだ訳されていない。 令和5年度においては、コメニウスの最初の形而上学的著作である『第一哲学』を翻訳することができた。これは、本研究の課題をおおむね遂行できていることを示すものである。
|
今後の研究の推進方策 |
令和6年度においては、とくに次の2点に注力することによって、研究課題への取り組みを進めていきたい。 第一にコメニウスの後半生の主著である『人間に関する事柄の改善についての総合的熟議』(De rerum humanarum emendatione consultatio catholica)の第3部の『パンソフィア』(Pansophia)の精読にとりくみたい。さいわい、コメニウス研究の先達である太田光一氏が全訳を提供してくださっているうえ、コメニウス研究の国際センターであるチェコ共和国科学アカデミー哲学研究所の編纂による『パンソフィア』の批判版の出版が進んでいる。これらを対照させながら、本書についての基礎的な考察を進める。考察結果は、大学紀要等に公表していく。 第二に、『人間に関する事柄の改善についての総合的熟議』の末尾に付属している『パンソフィア事典』(Lexicon reale pansophicum)の翻訳にとりくむ。本書は、コメニウスが用いたさまざまな概念の彼なりの定義が記されており、コメニウス研究には必須のテキストでありながら、とくに日本では、断片的にしか用いられてこなかった。全訳の必要はないと考えているが、とくに重要な概念についての定義は訳出していきたい。ただ、訳文の検討に十分な時間が必要であり、その公表は年度内には難しく、数年を要すると思われる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
勤務先の研究支援体制が改革され、科学研究費が交付され、在職年数を満たす教員が、長期研修の機会が与えられることになった。そこで、令和7年度夏から令和8年度夏にかけて、集中的に研究する期間を確保することを計画している。それにともない、他年度の渡航日数を短縮し、令和7年度および令和8年度の研究に係る旅費、交通費等が必要となるため、研究費の執行を年次間で調整する予定である。令和6年度においても、研究課題の着実な遂行に努めつつも、同様の方策をとることを考えている。
|