研究課題/領域番号 |
23K02157
|
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
小玉 亮子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50221958)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | 幼児教育 / ジェンダー / 社会史 / 戦争 / ペスタロッチ・フレーベルハウス / ドイツ |
研究実績の概要 |
本研究は、第二次世界大戦後、戦後の混乱から東西分裂に至る政治的激動下のドイツで、幼児教育がどのように展開したのかを明らかにすることを試みるものである。すでに、先行 研究において明らかにされてきたところではあるが、ヒトラーによる幼稚園の創始者である フレーベル礼賛を背景に、ナチス期の幼児教育は、その政治体制を支えるエージェントとして機能した。しかし、ナチスの消滅後ドイツではさまざまな変革が行われる中で、幼児教育がどのように戦後対応したのかは、十分明らかにされていない。戦時下のシステムにたいして、戦後ドイツの幼児教育はどのように対応しようとしたのか。 ベルリンにある、19世紀につくられた歴史と伝統あるペスタロッチ・フレーベルハウスという幼児教育の教員養成施設に焦点をあてて検討することを課題としている。 2023年度は、前回の科研費研究(ナチス期)の継続研究として、ヒルデガルド・フォン・ギールケという一人の女性に焦点を当てて戦前戦後で区切ることなく、幼児教育がどのように変化してきたのかについての分析を試みた。この研究成果は、学術論文「激動の20世紀を「よき教師」として生きる-ヒルデガルド・フォン・ギールケの場合-」としてまとめることができた。刊行は2024年度となったが、研究それ自体は2023年度に進めたものである。これまで、幼児教育における母性イデオロギーの問題は明らかにしてきたが、今回の研究で上層市民層の自意識とモラルの在り方が幼児教育にもたらす影響が浮き彫りになったことは、さらに重要な視点になるものであったと言える。 加えて、本研究の広がりを持たせるための比較の視点を持つことを可能にする、イタリアでの戦前戦後の研究成果も学会発表(保育学会)として報告を行い、また、ジェンダーの視点をより深めるために、男性論の翻訳書(ジョージ・モッセ)の改訂版も上梓した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度に学術論文「激動の20世紀を「よき教師」として生きる-ヒルデガルド・フォン・ギールケの場合-」(『歴史評論』889: 17-31)をまとめることができたことは、本研究にとって、重要な成果の一つになると考えている。ギールケはこれまでの教育史では必ずしも著名な人物ではなかった。しかし、戦前戦後を通して、時代に翻弄される彼女の姿は、ドイツの幼児教育の抱える課題を浮き彫りにするものであった。彼女の仕事は、ドイツにおける幼児教育の教師の資格制度の制度化や教育内容の科学化など、極めて先進的なものであったものの、戦争の時代は彼女の業績を必ずしも彼女が望むようには位置付けることがなかったのではないか。このことがさらにどのような意味を持つのか、検討する課題がみえてきた。 また、ドイツの研究を考える上で、その特徴を一層明確にしうる比較研究にもまた着手した。ドイツと同様に第二次世界大戦で敗戦したイタリアにおける幼児教育が戦前戦後を通じて、どのように展開したのか論文にまとめる作業に着手している。 これらの研究から、戦前戦後を切り離さないことによって、幼児教育の歴史的変化とその問題性が明らかになると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は、昨年度からの継続研究として、さらにペスタロッチ・フレーベルハウスの戦前戦後を連続的に見る視点から研究を進める予定である。戦前戦後の連続性という観点から見ると、これまでの研究では若干不十分であった資料収集や分析にも丁寧に臨みたいと考えている。というのも、戦後のドイツでは、ナチスの反省からヴァイマル期に戻って立て直していくような動きや意識が見られる点について、それが幼児教育におてどうであったのかについての検討が必要であろうと思われるからである。戦後に影響を与えたナチス期およびヴァイマル期も、視野に入れつつ、戦前戦後をつつなぐ研究を進めていく予定である。 また、2023年度から着手している、ドイツ研究の比較・参照国としてのドイツと同様の第二次世界大戦の敗戦国であるイタリアでの研究も重要であるとか考えている。これまで、若干、手薄かった研究を埋めていくことで研究を深めることと、同時に、比較の視点を持ちつつ研究の広がりを得ることも重要であると考えている。 そのためにも、ドイツ・ヨーロッパでの資料を補う必要があると考えている。現時点では、8月ないしは9月にヨーロッパでの調査に臨みたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2023年度2月に海外出張を予定していたが、渡航直前にコロナを発症し、海外出張ができなくなったことによって支出が全体的に減少したために、次年度に繰り越す予定である。 2024年度に海外出張を予定しており、その際に使用する予定である。
|