研究課題/領域番号 |
23K02340
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
藤井 康之 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (40436449)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 戦前期~戦後期の連続性 / 小学校音楽 / 中野義見 / 近森一重 / 自律的な音楽 |
研究実績の概要 |
日本教育学会第82回大会において、戦前期~戦後期における中野義見の音楽教育論について発表した。 中野は1922年に東京音楽学校甲種師範科を卒業後、戦前期には佐賀師範学校、湯島尋常小学校の教員を経て、横浜視学官、東京視学官を務め、戦後期には江古田小学校、桃園第三小学校の校長を務める傍ら、日本教育音楽協会理事としても小学校音楽界で活躍した、小学校音楽の歴史を明らかにする際に看過できない人物である。しかし、これまで中野に焦点化した先行研究はなく、本研究が初めてとなる。 中野の音楽教育論の特質を端的に言えば、系統的な楽譜指導(読譜指導)を音楽授業の主軸にしたことにあった。中野が楽譜指導を通して描いた理想の子どもの姿とは、「楽譜教授の難しさは、之を実施した人達の総てが味はつた苦しい経験であらう。それだけに又之に成功して、児童がすらすらと歌曲を視唱し得るやうになつた時の喜びは又格別である」(中野 1933)という言葉に表されていた。この基本的姿勢は戦前期から戦後期にかけて、彼の中で一貫していた。さらに、戦後期になって初めて出版された中野の著書は『楽譜の指導』(1948)であり、このタイトルからも彼の戦前期の教育理念、すなわち系統的な楽譜指導(読譜指導)を重視する音楽教育観の連続性が確認できた。 中野が戦前期から批判したように、従来の音楽授業における基礎指導(楽譜指導)は音程、リズム等を個別的に指導してきたが、中野はそれらをバラバラに指導するのではなく、音楽(楽曲)のまとまりの中で相互に関連づけ統合しながら音楽的に指導しようと試みており、このことは中野の音楽教育論の独自性であり、評価できる点である。他方で、「音楽は文字である」という考えから、読譜を音楽授業の根幹に据えることで、「技能教科」としての音楽科教育のあり方を強化した音楽教師の一人として位置づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は中野義見を中心にしながらも、近森一重の文献資料も含めて資料調査および収集を行った。中野、近森の音楽教育雑誌に掲載されている文献資料については、主に『教育音楽』を中心に収集した。ただ、資料調査にあまり時間が取れなかったため、『教育音楽』に掲載されている2人の文献資料を隈なく調査できているわけではなく、このことは次年度の課題である。 また2023年度は、日本教育学会第82回大会において、中野の音楽教育理念と実践の特質を、戦前期~戦後期にかけての連続性/非連続性に着目して発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は、①中野義見と近森一重の文献資料を、『教育音楽』以外の音楽教育雑誌にも手を広げながら、引き続き収集していくこと、②2023年度に発表した中野の研究成果を論文としてまとめて投稿すること、③近森の音楽教育論についてはまだ手つかずの状態であるため、彼の文献資料の収集と並行しながら読み込んでいくことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は文献資料の調査に、当初の予定通り行くことができなかった。また、日本教育学会での研究発表がオンラインだったため、旅費を使用することがなかった。 2024年度は、2023年度よりも多くの文献資料の調査に行く予定であり、さらに学会参加・発表での旅費およびパソコン等の備品費に使用する予定である。
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