研究課題/領域番号 |
23K02402
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研究機関 | 名古屋芸術大学 |
研究代表者 |
早川 知江 名古屋芸術大学, 教育学部, 准教授 (50454385)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 小学校英語教育 / 教師の発話技術 / 英語絵本読み聞かせ技術 |
研究実績の概要 |
本研究は、小学校英語授業で児童の英語発話を引き出すための、教師の発話技術向上を目指した教材を作成する。その教材は、英語絵本読み聞かせ活動に特化し、教師による問いかけ(「これは何か」「次はどうなるか」など)に児童がスムーズに答えられるような「問いかけ方」を示す。大学の小学校教員養成課程、特に「外国語の指導法」の授業用教材を想定することで、将来の小学校教師の指導技術を向上させる。具体的には、英語による問いかけに児童が答えられないとき、教師はどう問い直せばよいかという問いを立て、選択体系機能理論(Systemic Functional Linguistics;以下SFT)、CDS(Child-Directed Speech;年長者が子どもに語りかける話し方)などの言語理論に基づき試作教材を作成し、小学校での実践検証を経て教材を完成させる。 この全体像の中で、3年の研究期間の1年目に当たる2023年度は、試作教材を作成した。読み聞かせ用絵本を選定し、本文の要所要所に教師が発話すべき解説や問いかけを盛り込んだ。全ての問いかけに対し、児童に通じなかったときの対処用として、3パターンの「問い直し方」を用意した。すなわち、同じ内容を ①ゆっくり繰り返して問いかける、②構文を単純化して問いかける、③児童が答えやすい問いに置き換える(Wh疑問文をYes/No疑問文に置き換える等)。 この試作教材を所属学会で発表し、参加者から対象児童の学年により問いかけの難易度を変えるべきなどのアドバイスをいただいた。それらをもとに試作教材を改善させ、小学校現場で、どの問いかけ方が最も児童の発話を引き出すか実践検証を行うのが、2024年度の計画である。 本研究の意義は、小学校英語教育に不可欠な絵本読み聞かせ活動に対し、将来の小学校教師の対応力を高める教材を提供することで、小学校英語教育の質が高まることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上欄に示したように、本研究の最終目的は、英語絵本読み聞かせ活動に特化し、小学校英語授業で児童の英語発話を引き出すための、教師の発話技術向上を目指した教材の作成である。 このためには、実際に児童の前で教師が読み聞かせを行い、教師のどのような発話が児童の英語発話を引き出すかを実地調査する過程(本研究では2年目に実施)が欠かせない。その調査を行うために不可欠な2つの要素が整ってきているという点で、全体として研究は順調に進んでいると言える。 1つ目の要素は、読み聞かせ用試作教材の作成である。SFL、CDS理論に基づいて、児童が答えやすいと考えられる教師の問いかけ方を研究し、その成果を4本の論文として発表した。それらの問いかけを盛り込んだ読み聞かせの試作教材(読み聞かせ台本)を今年度作成し、学会で発表した。そこでもらったアドバイスも参考に教材を改善・完成させることで、来年度の実践検証が実施可能となった。 2つ目の要素は、実地調査を行う場の設定である。これについても、申請者が所属する大学の近隣の小学校で既に実施の許可が取れており、具体的な実施日時・時限案も決定している。今後、その授業の担当教員と、実施方法について調整を進める。 今後の課題としては、統計手法や検証方法の確立がある。上記の試作教材がどの程度有効か、実際に児童の活発なやり取りを引き出すか、教師のどのような発話が最も有効か、を確かめる効果的な実践検証を行うには、児童の発話を適切に処理・評価する手法が求められる。教師の問いかけに正しく答えられた児童の人数や、答えるまでの時間といった数量的データのみならず、児童が教師の問いかけをどう捉えたか、発話するのに抵抗や不安を感じたか、何が理解のヒントになったか、などを聞き取った質的データ(アンケートの自由記述など)を組み合わせて、総合的に評価・検証できる方法を今後探る必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の3年間の計画概要は以下の通りである。 〈1年目〉試作教材作成→ 既に完了。 〈2年目〉小学校における実践検証。申請者の勤務する大学の近隣小学校に依頼し、上記教材を用いた絵本読み聞かせを実施させてもらう。教師と児童のやりとりは許可を得て録音し、どのような問いかけが最も児童の英語による発話を引き出したか、児童が返答できなかった場合どの「問いかけ直し」が有効だったか、談話分析の観点から分析する。 〈3年目〉フィードバック。検証結果を試作教材へフィードバックさせて教材を改善し、ネイティブ・チェックを経て完成させる。CDS理論に基づく教師の発話指導法の妥当性を検証し、試作教材の改善・完成を目指す。 今後この研究を推進させていくための課題として、上欄に記したような、児童の発話を適切に処理・評価するための統計手法や検証方法の確立が求められる。この点に関し、統計学や談話分析に関する先行研究にあたるだけでなく、実際に小学校教育の分野で行われてきた実地調査の報告論文を多く参考にすることで、児童の実態を最も適切に反映すると考えられる検証方法を確立する。その際、研究協力者である児童が、研究に参加することで不利益や心理的負担を被らないように、楽しく気軽に行える方法を工夫することを最も重要な留意事項とする。 また、最終年に完成させた試作教材は、実際に大学の小学校教員養成課程「外国語の指導法」の授業で利用することでその教育的効果を確認することが重要である。そのため、試作教材を用いた絵本読み聞かせ指導を含めたカリキュラム設計を進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として約70,000円が生じた理由は、今年度の物品費・旅費の使用額が予定より少なかったためである。 まず物品費に関しては、読み聞かせデータとしての英語絵本について、既に研究室所蔵のものも活用したため購入数が減ったこと、試作教材(読み聞かせ用台本)が既に持っているパソコンアプリで作成できることが分かり、パソコンアプリ購入の必要がなくなったことで、50,000円ほど予算を下回る支出となった。 次に旅費に関しては、2回の大会参加と2回の研究会参加で合計92,000円を見積もっていた。このうち研究会について、小学校での実践検証計画の参考とするため、小学校教育現場について幅広く学ぶオンライン研修会5回への参加に切り替えたため、旅費は大会参加のための65,000円のみとなった。 物品・旅費に余裕が出た分から、大会・オンライン研修の参加費(費目:その他)を支出させていただき、最終的に70,000円の次年度使用額が生じた。来年度実施の小学校における絵本読み聞かせ実践検証では、児童の反応を適切に評価するため、アンケート結果を文字起こしするなどの必要が生じる。今回生じた次年度使用額は、その作業のための人件費・謝金として使用させていただく計画である。
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