研究課題/領域番号 |
23K02537
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
秋吉 恵 立命館大学, 共通教育推進機構, 教授 (00580680)
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研究分担者 |
秦 憲志 滋賀県立大学, 地域共生センター, 研究員 (50760815)
森田 恵 湘南工科大学, 社会貢献活動支援室, 特任講師 (50975092)
櫻井 典子 新潟大学, 教育基盤機構, 准教授 (00537003)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 二者間の相互作用 / 関係性の変化 / 関係性の前進と後退 / キーコンピテンシー / 個人的信頼 / カテゴリー信頼 / 認知的社会関係資本 / 構造的社会関係資本 |
研究実績の概要 |
初年度は、共同研究者が担当する複数の地域を基盤とした学習(CBL)事例の中から活動記録や学生の学習成果物を分析し、大学側アクターと地域側のアクター間で関係性の変化が認められた事例を5大学で一つづつ選定した。そして2023年度2月に関西(兵庫県朝来市、大阪府茨木市、滋賀県豊郷町)、2023年度10月に関東(神奈川県二宮町)および11月に上越(新潟県十日町市)において、CBL受け入れにおけるキーパーソンである地域組織の関係者に対し、当該CBL担当者以外の研究者がインタビュー調査を実施、5名全員でCBLでの地域活動の現場を視察した。ここで得られた質的データを当該CBL担当者以外の研究者以外が文字に起こし、2ヶ月に1度程度のオンライン研究会において5名の調査者で共有しながら、地域側が認識し言語化しているCBLに関わるアクター間の相互作用、関係性の変化(前進と後退)を抽出した。そして、これらが地域組織関係者や地域住民の能力・態度・価値観に与えた影響や、そこからアクター間の信頼や暗黙に了解される規範の形成など認知的社会関係資本、さらに役割分担や形式化された規則など構造的社会関係資本が醸成されているかを分析した。そして、これら地域側の視点から得られた調査結果と2022年度までに発表している担当教職員の視点との相違を確認した。 ここで得られた地域側の変化を探る調査方法および分析方法と調査結果は、論文にまとめ学術雑誌に投稿、10月の国際学会(IARSLCE)および3月の国内学会(大学研究教育フォーラム、日本社会関係学会)で発表した。 これら発信物を5名の研究者で共働しながら執筆するプロセスや、発信物に対する外部による反応から、本研究が大学が関わるCBLによる地域へのインパクトを提示し得る重要な視点と分析枠組みを見出していることを実感するとともに、調査法や分析法に一定の課題があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に携わる5名の共同研究者が、それぞれの大学で担当してきた複数の地域を基盤とした学習(CBL)事例の中から選択された全国に散らばる5つのCBLの現場に5名全員がともに調査に入り、地域の受け入れ地域組織のキーパーソンから話を聞き、そこでの気づきを共有、丁寧な議論を重ねてきたことで、本研究で実証しようとしているCBLによる地域の社会関係資本の醸成プロセスをより精緻に示し、さらにその醸成プロセスを日本社会関係学会で発表し学会員にご理解いただいたことから、概ね順調に進展していると考えた。 何より、教員の視点からは示されていた、大学(学生、教員、管理者)、地域(地域組織スタッフ、地域住民)の5つのアクターのうち、二者間の関係性の変化を、教員のみならず地域組織の関係者も認識していることがインタビューによって明らかとなった意義は大きいと考えられる。一方で、地域へのインパクトとしてその相互作用による関係性の変化(とその認識)が地域の中でどこまで広がっているのか、については、さらに地域の対象者を拡大して調査する必要があることが確認された。また、関係性が前進していくポジティブな変化を地域組織関係者から引き出すことはできたが、キーコンピテンシーの高まりや、信頼の構築に寄与すると仮定する関係性の後退を経て、前進に転じる変化については、関係性の後退がネガティブな印象があるためか、引き出すことが難しく、今後の課題と考えている。さらに、質的調査の分析方法についても、投稿論文で査読者から指摘を受けるなど、今後の工夫が求められるため、概ね順調な進展と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、昨年度の成果をもとに、質的データの分析をより工夫しながら進め、調査した5事例それぞれについて可能な限り、事例研究論文にまとめて公表する。その際、当該CBL担当の教員と、担当外で調査結果のまとめを主に担った研究者とで事例研究を進めることで、主観的な分析と客観的な分析の二つの視点からの分析を進め、その分析結果に他の3名の研究者が現地を知る立場から意見を伝えることで、複数の視点を踏まえた事例研究論文の執筆が可能になると考えている。さらに、CBLによる地域の社会関係資本の醸成プロセスについて、日本社会関係学会での発表をもとに、投稿論文にまとめる。こちらについては研究代表者が執筆を担うが、4名の研究分担者からの事例を踏まえた示唆を活用したい。 これに加えて、CBL事例の調査も継続する。地域へのインパクトとしてその相互作用による関係性の変化(とその認識)が地域の中でどこまで広がっているのか、については、さらに地域の対象者を拡大して調査する必要があることから、2023年度に調査した5事例について、地域での調査対象者を地域住民や関係組織に拡大した調査を予定している。また、CBLの地域へのインパクトには、その地域がもともと持っている社会関係資本の質や量が影響することが見出されたことから、地域の社会関係資本に関わる質的調査、地域の歴史や地域組織の活動展開等の調査も同時に行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた活動調査は研究代表者、研究分担者、研究協力者、5名が全員で対象地域に出向き、役割分担をしながらインタビュー調査や観察を行う計画をほぼ実行できている。また、米国国際学会での口頭発表や国内学会でのポスター発表など研究代表者による成果発表の機会は予定通り実施した。一方で、研究分担者、研究協力者による成果発表は、初年度には大学教育研究フォーラムでの企画セッション以外に、発表することは難しかった。また、投稿論文についても共同での執筆と査読対応を行なったものの採択まで至らなかった。これら主には成果発表に関わる旅費や参加費、発表費の支出が少なかったことが、次年度使用額が生じた理由と考えられる。 この状況を踏まえ、次年度は調査研究で得られた成果を、初年度以上に積極的に発信していく。初年度の調査、分析とオンラインでの議論により、研究成果は着実に蓄積されていることから、発表の機会をいかに作るかが問われている。そこで昨年度末に成果発表の計画をオンライン研究会ですでに話し合っている。また、昨年度に引き続き、複数の視点での現地調査を行うべく、調査計画も策定した。
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