研究実績の概要 |
本研究課題は、不公正の被害者が示す「抗議」の効果を解明することを目指すものである。 2023年度には、まず抗議という題材に関する既存知見を精査することで理論的基盤の構築を進めた。抗議行動には、個人や集団による訴訟、デモ、ストライキなど、さまざまな形があるが、報道やルポ、文献を整理しつつ、社会心理学の研究知見と照らして、抗議者の心理についての系統的特徴の把握を目指した。その結果、不公正の知覚、集団や規範への同一視、抗議の有効性感覚などが、人や集団を抗議に駆り立てる主要な動機的因子であることがわかった。 そして、当該年度中には、被害者による抗議に向けられる人々の態度を検討するため、2件の実験を実施した。ひとつめの実験では、大学生265名に事故や傷害事件の架空事例を呈示し、被害者への印象評価を求めた。事例のなかで被害者が主体的な抗議の意志を示すことは、人々の共感や同情を促進していた。その一方で、抗議は、被害者が「か弱くない」という印象も強めており、それが、被害者に情緒的サポートを提供しようという意図の低下をもたらしていた。つまり、被害者による抗議は、被害者への受容的態度を醸成しうるが、場合によっては被害者支援を抑制する働きを持つといえる。この点をさらに検討するため、一般サンプル500名を対象に追加実験を実施した。この実験では、被害者への支援意図に加えて、支援の必要性や有効性の認知についても測定しており、理論の精緻化が可能となっている。このデータは、現在分析を行っているところである。 本プロジェクトの成果は、日本社会心理学会第64回大会にて報告された。加えて、当該年度には2篇の共著論文が刊行された(Shimizu, Hashimoto, & Karasawa, 2023; Numata, Asa, Hashimoto, & Karasawa, 2024)。
|