研究実績の概要 |
本研究の主目的は、『幼児・児童の他者理解』について、感情コンピテンスの視点をふまえ、社会的関係の中での子どもの感情言及とそれがもたらす関係調整機能のプロセスを通じて発達的検討を行うことである。今年度は、幼稚園での観察を継続して行い、これまでのデータの比較分析や、学童期の教室談話の基礎分析を進めるとともに、特に、家庭場面で子どもが日常関わる、重要かつ多様な関係性としての祖母を含む三世代会話における子どもの感情言及に対する感情的社会化のプロセスに焦点をあて検討を進めた。 ①幼稚園での仲間遊び場面での感情言及の関係調整機能:これまでの申請者の検討から、ポジティブな感情言及としての「おもしろい」「楽しい」(岩田,2019)および、「かわいい」(岩田,2022)への言及や、遊戯的なネガティブ感情言及(岩田,2021)が、仲間間の関係調整において有効な役割を果たしていることが示唆された。本年度は、ポジティブな感情言及についての研究成果について比較分析を行った。その一部について第35回日本発達心理学会大会にて発表を行った。 ②三世代会話における子どもの感情言及に対する感情的社会化機能:家庭場面での高学年期のきょうだい(長男A、長女B)、祖母、母を含む三世代会話における、きょうだいのネガティブ感情言及に対する祖母・母の感情的社会化機能について検討を行い、その研究論文が公刊された(家族心理学研究,2024)。祖母と母が共通の視点に基づき,社会化において重要と考えられる応答を協働的かつ焦点的に行っていること等が示され、感情的社会化を通じた感情コンピテンスの発達に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、園での観察を可能を継続して行うとともに、家庭場面の三世代のやりとりや、園・学校での子ども同士のやりとりの観察データについて、感情言及と関係調整に関わる分析を進めた。 現段階までの研究成果として、特に、三世代会話における高学年期の子どものネガティブ感情言及に対する感情的社会化機能に関わる検討を進めることができた(家族心理学研究,2024)。同研究は、感情的社会化に対する三世代のやりとりの重要性が指摘されつつも、これまで母子間等、二世代を対象とした検討にほぼ限定されていた状況や、実際のやりとりの観察に基づく研究が極めて少なかった状況に対して、観察データに基づく実証的な知見を提供しうるものとなる。特に子どもの感情言及と関係調整に関わる発達に母や祖母を含むやりとりが果たす役割や重要性を示唆する結果として、その意義は大きい。 また、園での仲間間の感情言及を含むやりとりについては、ポジティブな感情言及としての「かわいい」への言及と関係調整についての研究成果(岩田,2022)が近年公刊され、これまでの「楽しい」「おもしろい」への言及と関係調整に関わる研究成果(岩田,2019)等との比較検討が可能となった。その一部は第35回日本発達心理学会でも発表し、討議を行った。今後、比較検討の内容や、これらの感情言及に想定される、性差等の観点をふまえた分析を進め成果を発表していくことが必要となる。 児童期に関わる検討については、今年度は、高学年期の話し合いのデータに着目し、感情言及と関係調整の観点に基づき基礎分析を進めているところである。逐次得られた結果について、今後研究報告を行っていく予定である。 総じて、本年度については、特に三世代会話に関わる分析を中心に、ほぼ着実に進んでいる。こうしたことから、当初の研究目的に沿った研究の進行は概ね順調になされているといえる。
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