研究課題/領域番号 |
23K02883
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
筒井 雄二 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70286243)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 原子力災害 / 放射線不安 / 心理的影響 / 避難 / 心理的ストレス |
研究実績の概要 |
東京電力(TEPCO)福島第一原子力発電所の事故が引き起こしたとみられる心理学的影響は低線量放射線汚染地域で暮らす住民に比べ,政府から避難指示を受け避難生活を続けてきた帰還困難区域に居所のある住民に特に顕著であり,放射線不安,避難による人間関係やコミュニティの消失・分断による苦悩や精神的ストレス,セルフスティグマ的思考が加算的に影響している結果であると推測される。日本政府は2022年から帰還困難区域の一部の避難指示を解除し,帰還に向けた事業(特定復興再生拠点整備事業)を開始したが,原発事故から13年が経過し,これまで長期間にわたる避難生活を送ってきた住民らが帰還し,故郷での生活を再スタートさせることが,必ずしも彼らの精神健康上,有益であるとは限らない。本研究は,帰還困難区域から避難を続けてきた被災者に焦点をあて,長期避難や帰還にともなう心理的健康の推移を心理学的に評価することを目的とし調査研究を実施する。 初年度は調査研究に協力いただく対象をさがすことから始め,浪江町の被災者の皆様にご協力いただくこととした。同時に研究倫理審査の申請を行い,令和5年7月19日に実施許可の通知を得た。 その後,質問紙調査のための準備を行うとともに,浪江町の調査対象者と調査の実施に関わる詳細を取りまとめる作業を行った。さらに,比較対象群として他県で生活している方への調査の準備も行った。 11月には調査を実施し,浪江町民358名,浪江町以外の福島県民733名,山形県民262名,秋田県民256名,青森県民317名から回答を得て,現在集計作業と分析作業を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に詳しく述べた通り令和5年度の前半は調査研究を実施するための諸準備に費やした。調査対象者の確保や倫理審査のための手続き,調査のための質問紙の作成などがその主たる作業の内容である。これらの準備がすべて整い,11月にはその調査の実施にこぎつけたことから,令和5年度における重要な目標は達成できたのではないかと考えている。調査の準備に若干時間を多く費やしたため,調査の開始時期が11月になったことから,その後の作業が後ろ倒しになったことは否めない。データの集計や解析に若干の遅れが生じている。 令和6年度も前年度と同様,前年度と同じ時期に2回目の調査を実施する予定であるが,その手続きは前年度とほぼ同様であることから,現在の遅れは広がらないであろうと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
先述の通り,昨年実施した調査データを集計し,分析する作業を行っているところである。まずはこの作業を完成させることを急ぎたい。その後,令和6年9月に開催される日本心理学会第88回大会において,原発事故による長期影響について考えるシンポジウムを開催し,その場でこの研究の成果の一部を公表する。7月に開催されるInternational Congres of Psychology 2024(ICP2024)では今回の調査に関連するデータを紹介し,調査に関する問題点や,原発事故の被災者に対する心理的ケアに関する最近の知見について習得し,今後の研究にその成果を活かしたい。さらに,できれば研究の成果の公表と同じタイミングで,研究結果を調査に協力してくれた浪江町の被災者の方にフィードバックするとともに,原発事故が社会に与えた影響の大きさを鑑み,マスコミにも結果を周知し,報道していただくべく作業を行いたいと考えている。 11月には前年と同様の手続きにより2回目の調査を実施する。調査の準備は8月から開始したい。準備には,質問紙の整備,印刷,発送作業が含まれる。第2回の調査が完了したら,データを集計し,解析作業を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究では調査の実施に至るまでの準備に若干,時間を多く費やしたことがその一因と考えられる。そのため,調査の実施が11月にずれ込み,その後のデータ入力やデータ解析作業も少しずつ後ろ倒しになった。このような事情により,2023年度内に行うべきであった課題の一部が2024年度に食い込んだことが,次年度使用額が生じた理由である。 2023年度に完了しなかった作業を2024年度の早い段階で終わらせる予定であるが,その際に,前年度から繰り越される予算を利用したい。
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