研究課題/領域番号 |
23K02886
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
田島 充士 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30515630)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 対話 / カウンセラー / 小学校教育 / リーダーシップ / アート |
研究実績の概要 |
本年度は、本科研申請時に提案した、批判を交わし合う話者同士の対話を自律的に組織できる特性としての「カウンセラー型リーダーシップ」に関する理論的および実践的検討を進めてきた。 理論的検討としては、ロジャーズなどのカウンセリング理論、精神医療において注目されるロシアの思想家・M.M.バフチンの対話理論および、カウンセリング技法を応用した教育実践理論に関する情報を集め、分析を行った。またカウンセリング理論や対話理論に関連深い、異文化コミュニケーションに関する学術研究についても情報収集を進めた。 実践的検討としては、大阪市内の小学校教諭が参加する『新授業デザイン研究会』との研究連携を通し、小学校現場におけるカウンセラー型リーダーの養成可能性について検討を行った。研究会代表の藤倉憲一氏との議論を中心に、カウンセラー型リーダーシップに該当する学習者の能力の具体的な姿および、その能力を養成するための教育プランの立案を行った。また新授業デザイン研究会の教諭らと共同開発を行ってきた、子どもたちの批判的思考力をともなう対話を促進する授業デザイン「TAKT授業」の成果分析を行い、カウンセラー型リーダーを養成するための授業開発の基礎データを提供した。 子どもたちが将来、参与することになる実社会において要請される能力についても、民間企業の人材研究者である武元康明氏(sagasu株式会社・代表取締役)の協力を得、検討を進めてきた。さらに、発展が目覚ましく日本との連携企業も多い中国・広東省におけるビジネス界の人材観についてもフィールドワークによる調査を行い、カウンセラー型リーダー養成のための実践開発に関わる基礎情報を得た。 これらの研究成果は、学術論文および学会発表・現場教員向けの招待講演などにおいて発表を行ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カウンセラー型リーダーシップに関する検討は、当初の予想を超える進度で進んでおり、またその成果発表についても順調に行えている。 まずカウンセラー型リーダー養成の基盤となる、新授業デザイン研究会と共同で開発した「TAKT授業」の開発経緯およびその成果についてまとめ発表した。TAKT授業は子どもたち同士の批判的な評価をともなう対話を促進することを目的とした教育デザインである。このTAKT授業の効果検証の成果を、フィールドワーク先である大阪市内の公立小学校長らで構成される天遊大阪市小学校連合会の招待講演において発表した。またその一部を、学術雑誌・紀要などに投稿した。 またカウンセラー型リーダーシップを養成するため、新授業デザイン研究会においてTAKT授業を改良した新たな教育プランの開発を行い、大阪市内の公立小学校4校においてパイロット実践を実施した。申請者は授業を実施する教諭らを支援する藤倉氏と協議を重ね、情報提供と成果分析を行った。その結果、カウンセラー型リーダーとは、1)フォロワーの意見の傾聴を通して彼らの思考世界(知っていること・知らないこと・関心)を探り、2)フォロワーの応答を促進するための様々な表現方法を駆使した働きかけが出来、3)批判的コメントを交わすフォロワー同士の自尊心と信頼感を高めることが出来る者であると定義づけた。そしてこのような能力が、実際にパイロット実践の実施を通じて参加者に育ちつつあることを確認した。 さらに研究を進める中で、様々な関心を持つ鑑賞者に向けて作品を制作するアーティストの思考とカウンセラー型リーダーシップとの類似性が指摘された。そのため、現代社会において活躍するアーティストを対象としたフィールドワーク調査も実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度においては、当初の研究計画通り、2023年度の研究成果をもとに理論研究・実践研究をさらに深化させる予定である。 理論研究としては、ロジャーズなどのカウンセリング理論、バフチンの対話理論を発展的に解釈し、より精度の高いカウンセラー型リーダーシップの概念構築に努める。さらに社会心理学領域におけるリーダーシップ研究との接続を進め、これまでの研究成果との関係について検証を深める。 実践研究としては、これまでの研究成果を基に、より精度の高い教育デザインの共同開発につとめる。具体的には、2023年度に実施したパイロット実践の成果を踏まえ、小学校現場における実践研究者との研究連携を通じ、より組織的な実践方法の開発を推進する。またこれらの研究成果をもとに、実社会における人材観の視点から再検証を行い、現代のグローバル化社会に通用する、強靱な人材育成モデルの構築を目指す。さらに現代社会で活躍するアーティストらへのインタビュー調査を通じ、アート活動の対話教育への転用可能性について考察を深める。 以上の理論研究・実践研究をもとに、本研究が設定したカウンセラー型リーダーの養成に向けた教育について提言を行うための研究発表の準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究そのものは想定以上に進んだものの、計画をしていた海外における研究発表と情報収集までは進まなかった。また研究を推進するための講演会等も本年度には実施出来なかった。来年度は、海外において活動を行い、また研究をより推進するための講演会等も実施する予定である。さらにこれらの活動に付随して新たに必要となる研究資材なども、購入する予定である。
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