ストレス低減効果のあるマインドフルネスでは,さまざまなトレーニングが用いられているが,その中でも周囲の音に意識を置く教示や,呼吸への注目やボディースキャン,自分の動作への注目といった身体感覚に意識を置く教示が多く用いられている。これらの教示は他の心理療法にも含まれており,ひいてはストレスの低減をもたらす重要な要素と考えられる。しかしながら,これまでさまざまなトレーニング法における効果の違いについて,その精神生理学的メカニズムを検討した例は限られており,未解明な点が多く残されている。そこで2023年度は,マインドフルネスの基本的なトレーニングである周囲の事物や自分の身体感覚に注意を向ける操作を行い,その際の生理指標を測定することで,マインドフルネスや他の心理療法にも共通する作用機序を解明することを目的として実験を実施した。 参加者を呼吸に意識を置く群,換気扇の音に注意を向ける群,特別な対処を行わない群に分けて実験を実施した。初めにベースラインとして10分間安静にしてもらい,次に計算課題を5分間実施した。その後,15分間安静にしている間に各条件の操作を実施してもらった。最後に,すべての群で10分間安静にしてもらった。各測定区間の後に主観指標を測定し,ベースラインの後,注意操作の後,安静後に唾液を採取した。 その結果,室内の音に意識を向けたり,自分の呼吸に意識を向けることで,ネガティブ感情やストレス感が低下することが明らかとなった。しかしながら,唾液中のコルチゾール値は,自分の呼吸に意識を向けた際にのみ低下した。呼吸に意識を向けることで,15分間という短時間でもストレスホルモンを抑制する効果があることが明らかとなった。
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