研究課題/領域番号 |
23K03025
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
朝倉 政典 北海道大学, 理学研究院, 教授 (60322286)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 超幾何関数 / フロベニウス構造 / p進コホモロジー / p進L関数 |
研究実績の概要 |
2023年度においては、次の2つの課題について研究を行った。 (1)超幾何関数のフロベニウス構造の研究。代数多様体の変形族に対し、ドラムコホモロジーに作用するピカール・フックス方程式の研究は、周期積分の研究において基本的かつ有用である。代数多様体の基礎体をp進体にし、コホモロジーをリジッドコホモロジーにすることで、ピカール・フックス方程式にフロベニウス構造が定まる。このフロベニウス構造は代数多様体の数論的不変量を表しており、重要である。本研究では、ピカール・フックス方程式が超幾何関数の満たす微分方程式(超幾何微分方程式)になる場合を詳しく研究した。2021年にKiran Kedlayaは、超幾何微分方程式のフロベニウス構造に現れるある定数項がp進ガンマ関数の特殊値になっていることを示した。本研究では、萩原啓氏(慶応大学)と共同で、Kedlayaの定理の一般化を行い、プレプリントとして書き上げた。Kedlayaの定理に現れる定数項はp進ガンマ関数であったが、パラメーターの条件を変えると、p進L関数の特殊値が現れることを証明した。これは、代数多様体の退化族の対数的クリスタリンコホモロジーのフロベニウス構造の研究に応用がある。萩原氏との共同研究の成果は、投稿予定である。 (2)アデリック超幾何関数の研究について。伊原康隆およびAndersonは、フェルマー曲線のタワーのガロア作用を考えることで、アデリック・ベータ関数を定義した。伊原・アンダーソン理論と呼ばれる。本研究では、大坪紀之氏(千葉大学)と共同で、フェルマー曲線ではなく、超幾何曲線のタワーを考えることで、伊原・アンダーソン理論の一般化を行った。超幾何曲線とは、ガウス超幾何が周期に現れる代数曲線で、退化ファイバーにフェルマー曲線がある。これについては、現在も研究が進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究進捗状況は、おおむね順調である。 初年度においては、Kedlayaの超幾何微分方程式のフロベニウス構造に関する論文を理解し、それを一般化することを最初の目標としていたが、それについては完全に達成された(萩原啓氏(慶応大学)との共同研究)。特に、我々が目指す明示公式になかにおいてp進L関数の特殊値が現れるはずであると予想していたが、その目論見通りの結果を得ることができたことは満足のいく成果だったといえる。 一方で、本研究課題のテーマのひとつであるレギュレーターについては、年度内に結果を出すことができなかった。これについては、大坪紀之氏(千葉大学)との共同研究である、アデリック超幾何関数の研究において、一定の成果を期待していたが、まだ技術的な点で証明すべきことが残っており、現在も大坪氏と議論をしながら、精力的に研究している最中である。このテーマについては、ある程度の方針は出来ていることから、2024年度中には、一定の成果を得ることができるだろうと予想している。 以上、結果を出すことができなかった研究課題が残っているものの、2023年度内に達成できた研究成果としては、おおむね想定していたレベルである。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度研究実績の概要に記載した(1)超幾何関数のフロベニウス構造の研究については、おおむね研究が完成している。今後は、投稿し、論文として出版する予定である。(2)アデリック超幾何関数の研究については、一定の成果をあげることができたが、まだまだ面白い定理が出てきそうな手ごたえを持っている。また、本研究課題のテーマのひとつであるレギュレーターについては、2023年度中は何も研究しなかったが、これもアデリック超幾何関数と関連して興味深い結果が出そうな印象を持っている。従って、2024年度も共同研究者の大坪氏と精力的に議論しながら、研究を継続していく。一定の成果が出そろった上で、論文にしてまとめるつもりであるが、どのような形で論文にするかについて、やはり共同研究者の大坪氏と緊密に連絡を取りながら打ち合わせていく。それとは別の研究課題を、宮谷和尭氏(徳島大学)とともに推進中である。宮谷氏とは、超幾何関数の多変数版であるGKZ超幾何関数(A超幾何関数)のフロベニウス構造について研究している。この研究で目標とするのは、研究実績の概要で記述したKedlayaの定理のGKZ超幾何関数への一般化である。ある程度、方針は出来ているものの、技術的なところでまだまだ証明すべき部分が多く、継続的な研究が必要と考えている。 2024年度は、北海道ニセコ町にて研究集会「L-functions and Motives in Niseko 2024」を開催する。この集会の主催者は、研究代表者および大坪紀之氏と佐藤周友氏(中央大学)の3名である。国内外の優れた研究成果の発表をやってもらう予定であり、北海道の澄んだ空気の中で、参加者たちの研究の議論が促されることを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度においては、主に出張旅費に多くを費やしたが、予定していた計算機の購入は行わなかった。計算機は現在使用中のものがまだ使えることから、新品の購入を急ぐ必要がないと判断したことによる。次年度には、北海道ニセコ町にて国際研究集会「L-function and Motives in Niseko 2024」を9月15日から20日の間に開催する予定である。この研究集会は、本研究代表者および大坪紀之氏(千葉大学)と佐藤周友氏(中央大学)が世話役となって主催する。開催にあたり、講演者の旅費援助、(主に)大学院生の旅費援助、および会場費の支出が見込まれるため、多額の研究費を使用することを想定している。研究集会以外にも、日本数学会への出席、代数学シンポジウムの開催(今年度は本研究代表者がシンポジウム責任者を務めることになっている)があり、これらの状況を考慮すると、研究費にあまり余裕がない状況である。従って、当該年度分を繰り越し、次年度の研究費分に追加することとした。
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