研究課題/領域番号 |
23K03031
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊吹山 知義 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (60011722)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 微分作用素 / 保型形式 / モジュライ |
研究実績の概要 |
Rankin-Cohen 型の微分作用素により、既存の具体的なジーゲル保型形式から新しいジーゲル保型形式を構成することにより、主偏極アーベル多様体のモジュライの moving slope と呼ばれる量を低い次元について確定させ、論文として出版した。これは R. Salvati Manni,S. Grushevsky, G. Mondello との共同研究である。跡部発、千田雅隆、桂田英典、山内卓也との共同研究で得た Harder 予想に関する結果を出版し、その続編を投稿した。桂田、小嶋久祉との共同研究で、池田・宮脇リフトのピリオドについての池田の予想を研究した。とりわけ、トリプル L 関数、3次のジーゲル保形形式の標準 L 関数の特殊値(微分作用素と pullback 公式などによる)を用いて、具体的な場合のいくつかで予想を厳密に証明した。青木宏樹との研究で、レベルが3までの2次の(ジーゲル)ヤコービ形式の明示的構造を確定した。証明のいたるところで、領域の制限で保形性を保つ微分作用素を本質的に用いており、その有用性が一層明らかになった。4次以上の超特異アーベル多様体のモジュライで、a-number で細分した時の構造について、Chia-Fu Yu および原下秀士との共同研究を開始した。これは4元数的エルミート群の parahoric 群についての両側剰余類による特徴づけなどを用いる。B. Williams と、エルミート保型形式について、いわばパラモジュラー形式に関する筆者の研究の延長としての共同研究を開始し、かなり状況があきらかになって進展しつつある。筆者はすでに極大でない2次整環の種指標による L 関数をアデールで簡明に述べていたが、古典的な2次形式の種の理論との関係についても新しく簡明な理論を述べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
領域の制限に関して保形性を保つような微分作用素を応用してできる整数論的な結果が広がってきており、その意味で、研究課題の意義が深まっていると思うし、実際に2次ヤコービ形式の構造定理などで、研究内容も進展している。継続している共同研究が5つあるという点で、切磋琢磨した活発な研究を行えている。一方で微分作用素の母関数の計算が、研究手段ははっきりしているのだが、時間の関係で手つかずで残っており、この点では進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
代表者の微分作用素の生成系の母関数に関する研究、D. Zagier とのランク8のパッフ系の解の具体的な記述に関する共同研究、青木宏樹とのレベルの小さい指数1の2次ヤコービ形式の明示的構造についての共同研究、B. Williams とのエルミート保型形式についての共同研究、Chia-Fu Yu、原下秀士との主偏極超特異アーベル多様体のモジュライの構造についての共同研究、C. Poor とのパラモジュラー形式が形式的対称ヤコービ級数で記述できるという予想の共同研究などを継続する。この最後の研究のため、まず5月5日からアメリカ数学研究所(パサデナ市)での短期共同研究プログラム SQuaRE に出席する。またこれ以外に D. Zagier, B. Williams, Chia-Fu Yu を日本に招聘するか、こちらが外国訪問をするかで、会う機会を作ることを計画している。特に Zagier は秋に彼が中国を訪問する予定があることに合わせて、日本に招聘して研究打合せを行いたい。他にも関連する外国人研究者を日本に招聘することを考えている。また日本国内でも相互訪問、研究集会への出席などを通じて、成果発表や共同研究を行う。 B. Williams との共同研究は今のところ、スカラー値の保型形式に限られているが、ベクトル値への一般化が全体の見通しをよくする上で必要と思われ、これは今後の研究課題である。なお、新しい数学的な視点としては、かつては Rankin Cohen 型作用素の理論的な基礎は研究代表者により 1990 年代に確定していると考えていたが、今回の研究の経験により、どうもそこでは捉え切れていない部分があるのではないかと思えてきた。これについても今後の研究課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張予定が諸般の事情により当初の計画よりも少なくなったので若干あまりが生じた。次年度の出張に用いる予定。
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