研究実績の概要 |
本研究では, 可換環のstrict closed性解析を手掛かりに, 1971年J. Lipmanによって提唱されて以来これまで1次元のCohen-Macaulay半局所環に限定されてきたArf環の理論を, 高次元のNoether環に拡張し, 具体例の解析を通して理論の展開を図ることを目標とする。1次元Cohen-Macaulay半局所環に対しては, 環のstrict closed性とArf性が同値であるとするO. Zariskiの予想があり, Zariski自身とLipmanにより体を含む環に対しては既に肯定的な解答が得られていたが, 研究代表者は最近, 約50年振りに同予想が一般に正しいことの証明を与えた。環のstrict closed性が任意の可換環に対して定義されることを鑑みるに, Arf環の概念を適切に高次元に拡張することができれば, Zariski予想の同値性に対応する性質を内包した高次元の環構造論の構築が期待可能である。本研究において, 以上のプロセスを実行に移す。 2023年度はstrict closed性の解析及び, Arf性の拡張概念の一つであるweak Arf性の解析に従事した。具体的な成果として, 例えば, 適切な仮定を満たすNoether環に対して, Serreの(S2)条件とweak Arf性を満たすような双有理有限拡大環を構成した。並行して, Arf環と不可分に関連する反射的加群に着目し, トレースイデアルの自己準同型環の反射的加群圏の構造解析にも従事した。 研究代表者は, 2023年9月と2024年3月の日本数学会, 及び2023年7月の可換環論セミナーへ出席し成果発表と合わせて, 情報収集及び研究連絡に従事した。2023年11月には, 神奈川県葉山町のレクトーレ葉山において第44回可換環論シンポジウムを主催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここ最近の数年間と比較しても, 2023年度は国内外の情勢が落ち着き始めた。依然として, 新型コロナウイルス感染症拡大の影響が無い訳ではないが, 国内外における各種学会や研究集会等は, 対面形式やハイブリッド形式の開催が殆どである。従来までのZoomやSlack等のオンラインツールを用いた共同研究者との議論を継続しつつ, 対面での議論の機会にも恵まれたため, 研究の進捗状況は概ね当初の計画通りである。以上により,現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度も新型コロナウイルス感染症の影響を注視し, 国内外の情勢を踏まえ, オンラインツールを用いた遠隔での議論と対面での議論を併用しながら研究活動に従事する。また, 国内外で開催される各種研究集会に関しても, 対面での参加を検討したい。2024年度に取り組む具体的な課題としては, 主に次数環のstrict closed性解析に重点を置きつつ, Rees代数の構造解析を通して, イデアルのstrict closureを導入する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け, 主として海外における各種研究集会への参加のために計上していた航空券代や宿泊費など, 旅費の使用予定分が次年度使用額として生じた。2024年度は新型コロナウイルス感染症の影響が少なくなると予想されるため, 積極的に共同研究者への訪問や共同研究者の招聘に加えて, 研究集会等への出席を対面で行う予定である。既に, 3名の共同研究者の招聘予定と1件の海外出張予定がある。その他, PCやタブレット端末, ソフトウエアを始めとしたオンライン環境改善のためにも使用する計画である。
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