研究課題/領域番号 |
23K03066
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桂 利行 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特任教授 (40108444)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | K3曲面 / Enriques曲面 / 自己同型群 / カラビ・ヤウ多様体 / 超楕円曲線 / Jacobi多様体 / Richelot isogeny / 正標数 |
研究実績の概要 |
標数2の有限自己同型群をもつ古典的Enriques曲面、超特異Enriques曲面は、金銅誠之およびG. Martinと研究代表者の共同研究によってnodal curveのconfigurationを用いて、古典的の場合には5種類、超特異の場合には8種類に分類されていた。しかし、各類の自己同型群がここで得られたものに限られるかという問題および各類のモジュライ数の決定は未解決であった。Schuettとの共同研究でこの問題を取り上げ、準楕円曲面の構造をもつ一般のEnriques曲面の方程式を古典的および超特異のそれぞれの場合に決定し、それを用いて有限自己同型群およびモジュライ数が上記3人の共同研究によって得られていた結果と一致することを示した。準楕円曲面の構造をもつEnriques曲面については、各類に属する有限自己同型をもつEnriques曲面の方程式の標準形を決定した。また、Enriques曲面がコホモロジー的に自明な位数3の自己同型を持てばその曲面は標数2における超特異Enriques曲面であることを示し、そのような曲面の方程式を決定した。この結果によりDolgachev-Martinにより研究されていたEnriques曲面のコホモロジー的に自明な自己同型群の構造を決定する問題で残されていた部分が決着した。 高島克幸との共同研究として、超楕円曲線のJacobi多様体が分解するRichelot isogenyを有する必要十分条件は超楕円曲線の反転ではない位数2の自己同型が存在することであることを示した。また、一般化されたHowe曲線を定義し、その曲線が超楕円曲線になるための必要十分条件を得るとともに、そのJacobian多様体の自然に作られるRichelot isogenyの分解の構造を決定した。この結果はポスト量子計算機暗号における同種暗号の理論と関係している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
M. Schuettとの有限自己同型群をもつEnriques surfaceに関する研究、ならびに高島克幸との代数曲線のJacobi多様体のRichelot isogenyの分解に関する研究が完成し、それら研究をまとめた2篇の論文を発表し受理された。なお、doiは未決定であるため、研究発表欄のdoiを「なし」と記入した。
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今後の研究の推進方策 |
K3曲面およびその高次元版のカラビ・ヤウ多様体、Enriques曲面、アーベル多様体を中心的な研究対象として、正標数における現象を解析していく。標数0においては、K3曲面S上に互いに交わらない16本の非特異有理曲線が存在すればSはKummer曲面になり、16本の因子の和は因子として2で割れることがNikulinによって示されている。正標数においても標数2以外の時は同様のことが成り立つことが知られているが、標数2では2で割った因子を用いて作られる被覆は非分離拡大になり状況が全く異なる。本年度はまず、標数2においてこの問題の類似を研究し、これらの因子を用いてできる被覆の構造解明、およびその時のK3曲面の構造の解明を行う。これらの解析にはK3曲面(2次元カラビ・ヤウ多様体)上の有理ベクトル場の理論を用いるが、高次元のカラビ・ヤウ多様体の正則ベクトル場の存在問題についても何らかの手がかりを見つけたいと考えている。これらの研究には研究協力者の金銅誠之氏や海外研究協力者のM. Schuettの協力を仰ぎたい。代数曲線のJacobi多様体を用いたRichelot isogenyの理論の同種暗号への応用については、代数曲線のJacobi多様体の分解が問題になる。これまでは、同種写像の次数が2のべきの場合を扱ってきたが、一般の自然数べきの場合にも同様の分解が調べられるはずであり、暗号サイドからの高島克幸氏のアドバイスを受けつつ、共同研究で新しい成果を見出したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究打ち合わせの回数、ならびに研究集会に出席する機会が想定していたよりも少なかった。Covid19が終焉して、世界的に研究集会、国際会議の回数が復活してきており、次年度は出席の機会を増やして研究をさらに推進する。
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