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2024 年度 実施状況報告書

3次元双曲体積のタイヒミュラー理論を通した理解

研究課題

研究課題/領域番号 23K03085
研究機関武蔵野美術大学

研究代表者

正井 秀俊  武蔵野美術大学, 造形学部, 准教授 (40735734)

研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2028-03-31
キーワードタイヒミュラー空間 / 双曲多様体 / くりこみ体積
研究実績の概要

本研究の主な動機は、研究代表者による論文で2024年度に出版された「Compactification and distance on Teichmuller space via renormalized volume」(J. Math. Soc. Japan掲載)にある。この論文では、くりこみ体積を用いてタイヒミュラー空間上に新たな距離を定義し、空間の幾何構造に対する新しい視点を提示している。この研究に基づき、京都大学の松田凌氏と共同で研究を進めている。具体的には、くりこみ体積に基づいて定義された距離の微分構造に関連する概念として、ベアズ埋め込み(Bers embedding)の数値的な性質を調査しており、初期の結果は新たな知見を示唆するものとなっている。

また、3次元多様体の幾何構造に関する共同研究として、Kazuhiro Ichihara氏、InDae Jong氏との論文「Complete exceptional surgeries on two-bridge links」がKodai Math. J.に掲載された。この研究も低次元多様体の幾何に関する知見を深めるものであり、本研究との関連が深い。さらに、ベトナムでの「Geometry and Dynamics in Low Dimensions」や韓国での「Teichmuller Theory and Beyond」といった国際研究集会において、本研究に関する発表を行い、国内外の研究者との議論を通じて着実に知見を蓄積している。

現在までの達成度
現在までの達成度

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、これまで所属していた東京工業大学理学院数学系から、武蔵野美術大学教養文化・学芸員課程研究室へと異動するという大きな転機を迎えた。異動に伴い、各種の手続きや環境の変化、さらに新しい授業の設計と準備など、想像以上に多くの時間と労力を要する事務的・教育的業務が重なったため、当初は研究活動に割ける時間が大幅に減少することが懸念された。

しかしながら、継続して共同研究を進めている京都大学の松田凌氏との定期的な議論や、武蔵野美術大学という美術系大学ならではの多様で新鮮な環境から受けた刺激が、自身の研究活動に対して予想以上に良い影響をもたらした。限られた時間の中ではあったが、これまでと変わらないペースで研究を推進し、一定の成果を上げることができたことは、自身にとって大きな励みとなった。

また、今回の異動により、任期付きの立場から任期のない職へと移行したことも、研究活動を安定的に継続するうえで極めて重要な要因であった。特に、将来への不安が軽減されたことで、精神的な安定が得られ、その結果として集中力や創造性が高まり、研究に対する姿勢にも良い変化が現れた。若手研究者に任期を課す制度が、いかに生産性や学術的探究心を損ない得るかを、身をもって痛感した一年でもあった。

今後の研究の推進方策

現在、京都大学の松田凌氏との共同研究として進めている数値計算の成果を、今後は具体的な論文として結実させていく予定である。特に、筆者の論文「Compactification and distance on Teichmuller space via renormalized volume」(J. Math. Soc. Japan掲載)において定義した、くりこみ体積をもとに導かれる新しい距離関数に対して、その数値的挙動や微分構造を明らかにするための計算を本格的に進めていく。これまでの松田氏との議論を通じて得られた知見や数値手法を活用しつつ、より精緻で広範な計算データを蓄積し、理論の裏付けを強固にしていく。

加えて、くりこみ体積に基づく距離とは別に、新たな観点から定義された距離に関しても、独自の数値的手法を用いて研究を展開する構想がある。これらの距離関数は、従来の定義とは異なる特徴をもちつつも、タイヒミュラー空間の幾何に対する深い洞察を与える可能性があり、今後の研究の中核の一つとして位置づけている。

さらに、前述の論文で用いたアプローチを他の距離関数に応用することで、タイヒミュラー空間上に定義可能なさまざまな距離構造が浮かび上がってきている。これらの距離を比較・分析することで、本来調べたいくりこみ体積に関連する距離の本質的性質や幾何的意味をより深く理解する手がかりが得られると期待している。その一環として、Bonahon によって導入された Geodesic Current の理論を活用し、これを通じてタイヒミュラー空間上に新たな距離構造を構成・分析する研究にも着手していく予定である。こうした複数の視点を融合することで、タイヒミュラー空間、3次元多様体の理解をさらに進展させることを目指している。

次年度使用額が生じた理由

当初の研究計画では、本研究に必要な計算機を研究費により購入する予定であったが、異動先である武蔵野美術大学から赴任に際しての支援として計算機を提供いただけたことに加え、学外での研究活動に関しても予想以上に出張費等の援助を受けることができた。その結果、研究費に一定の余裕が生じた。現在、その繰越分を活用し、2025年度に予定している国際研究集会の開催に必要な経費の一部として充てる計画を立てている。研究集会では、本研究に関連するテーマを扱い、国内外の研究者との議論を通じて今後の展開を促進することを目指している。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2025 2024 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)

  • [国際共同研究] Institute Fourier(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      Institute Fourier
  • [雑誌論文] Compactification and distance on Teichm?ller space via renormalized volume2024

    • 著者名/発表者名
      MASAI Hidetoshi
    • 雑誌名

      Journal of the Mathematical Society of Japan

      巻: 76 ページ: 673-712

    • DOI

      10.2969/jmsj/90429042

  • [雑誌論文] Quotients of the curve complex2024

    • 著者名/発表者名
      Maher Joseph、Masai Hidetoshi、Schleimer Saul
    • 雑誌名

      Groups, Geometry, and Dynamics

      巻: 18 ページ: 379~405

    • DOI

      10.4171/GGD/768

  • [雑誌論文] Complete exceptional surgeries on two-bridge links2024

    • 著者名/発表者名
      Ichihara Kazuhiro、Jong In Dae、Masai Hidetoshi
    • 雑誌名

      Kodai Mathematical Journal

      巻: 47 ページ: 191-214

    • DOI

      10.2996/kmj47205

  • [学会発表] A sibling of the Teichmuller distance2025

    • 著者名/発表者名
      正井秀俊
    • 学会等名
      Teichmuller Theory and Beyond
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] On distances and horofunctions on the Teichmuller space2025

    • 著者名/発表者名
      正井秀俊
    • 学会等名
      Geometry and Dynamics in Low Dimensions
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 測地カレントによるタイヒミュラー空間上の距離とコンパクト化2024

    • 著者名/発表者名
      正井秀俊
    • 学会等名
      東工大複素解析セミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] 距離感の数学2024

    • 著者名/発表者名
      正井秀俊
    • 学会等名
      Intersection of Pure Mathematics and Applied Mathematics Re:
    • 招待講演

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公開日: 2025-12-26  

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