本研究は、結び目理論や3次元トポロジーについて研究し、これを応用することでDNAやタンパク質の空間的配置とその機能の関係を解明するものである。クロマチン構造の解析手法として、chromosome conformation capture(3C)法を応用したHi-C法では、ヒートマップと呼ばれる図から染色体の立体構造を推測することができる。このヒートマップは曲線上の各2点間の距離の情報を集めたものとみなすことができる。ただし、実際の実験で得られるデータでは、欠損箇所も存在する上に一つの立体構造における正確な距離を示しているとも限らない。本年度は、ヒートマップが曲線上の各2点間の正確な距離を示している理想状態を仮定し、ヒートマップから曲線の座標の復元について研究を行った。この座標の復元は、理想状態のヒートマップが、鏡像は除いた完全な曲線の構造の情報をもっていることを示している。理論的には、絡み目の不変量もヒートマップからこの座標の復元を通して計算可能ではあるが、ヒートマップから直接絡み目の不変量を計算することも興味深い。本年度は、絡み数をヒートマップから直接計算する手法についても研究を行った。これらの研究で得られた結果は、カナダ・バンフにおける国際研究集会で発表を行った。絡み数は最も古典的で基本的な絡み目不変量であり、DNAトポロジーに限らず多くの応用が期待される。今後は、多角形の絡み数について、各頂点間の距離を用いた計算をより精密なかたちで完成させることが一つの課題である。
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