研究課題/領域番号 |
23K03219
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
春名 太一 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (20518659)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 順序パターン解析 / パーシステントホモロジー / 複雑性 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、多変数時系列における時系列間カップリングの複雑性の定量化方法を、順序パターン解析の手法とパーシステントホモロジー理論を組み合わせることで開発し、時系列データ解析に応用してその有効性を示すことにあった。
2023年度の課題は、多変数時系列のカップリングの情報を適切に反映したフィルター付き複体の構成法を検討することであった。研究開始直後に出版した論文において、多変数時系列の与えられた時間区間に伴うフィルター付き複体を、順序パターンの交わりを基に構成して、そのパーシステントホモロジーから得られるOPIと名付けた時系列間カップリングの複雑性を定義した。この論文ではすべての時系列が同期しているときOPI=0、またN個の時系列が独立なときに一定の条件の下でNを大きくする極限で確率1でOPI=1となることが証明されている。さらに、大域結合写像系のOPIは、非同期相と部分同期相の境界付近で最大となることが数値的に確認している。今年度は、順序パターンの交わりから単体を作る条件の強さを制御するパラメータh(>=1)を導入した一般化を提案し、その公理的特徴づけを得た。すべての時系列が同期しているときにOPI=0となるのは一般のhの場合でも元のh=1の場合と変わらないが、上述の意味で独立な場合にどのような値をとるかは自明ではないことが分かった。例えば、h=2ではOPI=13となる。一般のhの場合にOPIがどのような値をとるかを確定することは今後の課題である。応用として、Echo State Network (ESN)における共通入力信号に誘起された同期現象におけるOPIを数値的に調べた。入力強度を変えたとき、h=1ではOPIはほぼ一定であるが、h=2のOPIでは中間の入力強度でOPIが最大となり、一般化OPIの有効性を示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度に行う予定であった課題は年度内に解決できている。また、翌年度以降の計画も一部実行できている。さらに、研究が進むことによって当初の研究計画にはなかった派生的課題が生じており、解決に向けて部分的な結果を得つつある。
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今後の研究の推進方策 |
まず、「研究実績の概要」に述べた意味での独立な場合に一般のhでOPIがどのような値をとるか、あるいはパーシステンス図がどのようになるかを確定する課題に取り組む。ただし、h=2の場合から予想されるとおり、一般のhでは独立な場合でもOPIは大きな値をとり、OPIが大きな値をとることでもって時系列間カップリングの複雑性が高いとはかならずしもいえない可能性がある。そのため、一度パーシステンス図に戻り、例えばパーシステンス図間の距離を用いるなどして、時系列間カップリングの複雑性の尺度自体を定義し直すことも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究発表のため参加した国際会議の開催地がたまたま国内であったため、旅費が当初想定より少額で済んだため次年度使用額が生じた。来年度以降の旅費および論文発表のためのAPCとして有効活用する。
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