研究課題/領域番号 |
23K03296
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
那波 和宏 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (10723215)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | バンド反転 / スピノン / ジャロシンスキー・守屋相互作用 |
研究実績の概要 |
電子系におけるトポロジカル絶縁体の発見をきっかけに、波数空間における波動関数の繋がり方のねじれが多様な電子物性を示すことが見出されている。スピン-軌道相互作用は電子のスピン縮退を解いて電子バンドの反転現象を引き起こし、それに伴って電子波動関数に繋がり方のねじれを発生させる。このような波動関数のトポロジーの概念は電子系のみならず絶縁体にも適用され、ジャロシンスキー・守屋相互作用がマグノンやトリプロン等の磁気準粒子の波動関数の繋がり方のねじれを引き起こすとされる。本研究課題では研究対象を一次元量子磁性体Ca3ReO5Cl2に設定し、電子と同じ統計性を有する磁気準粒子であるスピノン波動関数の繋がり方のねじれを実験的検証を行うことが最終目標である。初年度は単結晶試料を用いた中性子回折実験を進め、本物質におけるらせん磁気構造を明らかにした。この磁気構造はある一次元鎖では磁気モーメントの向きが左巻きにねじれているが、隣の一次元鎖では右巻きにねじれるという特徴がある。この特徴的な磁気構造は、磁気モーメントのねじれが一次元鎖内の一様なジャロシンスキー・守屋相互作用によって誘起されており、かつその相互作用が隣り合う一次元鎖同士で正負逆に作用することで説明される。過去の中性子非弾性散乱測定からわずかに波数の正方向と負方向に分裂した3本のマグノンの分散関係が観測されていたが、基底状態の磁気構造が明らかになったことで、この波数シフトが一様なジャロシンスキー・守屋相互作用によって誘起されていることが実験的に立証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は単結晶試料の育成と単結晶試料の中性子回折実験によって一次元量子磁性体Ca3ReO5Cl2の基底状態を明らかにすることを目標に設定している。単結晶試料のさらなる大型化には成功していないが、他方で磁気構造は明らかになったため、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
二年目以降は単結晶中性子非弾性散乱実験によるスピノンのバンド交差の観測、磁場中単結晶中性子非弾性散乱実験によるスピノンのバンド反転の観測を予定している。これらを実現するために、引き続きフラックス法・ブリッジマン法による単結晶試料の大型化を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は旅費の使用見込みが当初よりも少なかったが、今後大型施設における中性子非弾性散乱実験によって旅費の使用見込みが増える可能性がある。このため、その分を次年度使用額として計上した。
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