研究課題
典型的な鉄系超伝導体であるEuFe2As2は、190Kにおいて正方晶(I4/mmm)から斜方晶(Fmmm)への構造相転移とFeサイトによる遍歴反強磁性秩序を同時に示す。さらに低温19 Kにおいて2価のEuサイトが反強磁性秩序を示す。Euサイトの磁性は圧力依存性が小さく、3 GPaまで反強磁性転移温度は、ほぼ変化しない。一方Feサイトによる反強磁性秩序は圧力印加により急激に抑制され、消失する3 GPa近傍で超伝導が発現する。これらの結果からFeサイトにおける3d電子のスピン及び軌道と超伝導の相関に興味がもたれている。本年度では、圧力下のEuFe2As2におけるFeサイトのスピンと軌道について57Fe核共鳴前方散乱実験から研究を行った。57Feを100%富化した単結晶試料をフラックス法により作製した。得られた単結晶の結晶方位と放射光の偏光ベクトルを揃えてダイヤモンドアンビルセル内に設置し、加圧を行っている。3 GPa近傍における低温の57Fe核共鳴前方散乱実験の時間スペクトルでは電場勾配と1T以下の小さな内部磁場による周期の長い量子ビートが観測された。この僅かな内部磁場の起源を調べるため、c軸とその垂直方向に外部磁場を印加することで各方向にEuの磁気モーメントを揃えた条件で実験を行い、零磁場の結果も含めて解析を進めた。その結果観測された内部磁場は、Eu2+サイトの磁気秩序による分子場であることが分かった。さらに3 GPa近傍では、Feサイトの電場勾配の最大主軸がc軸に対して垂直方向であることが明らかとなった。本結果は、正方晶I4/mmm のFeサイトの局所対称性では説明をすることができない。つまりFeサイトの3d電子空間分布の対称性が、正方晶の4回対称性からズレていることを実験的に示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は、元素選択的手法である核共鳴前方散乱実験を用いて鉄系超伝導体の圧力下におけるスピン及び軌道と超伝導の相関を研究することを目的としている。この研究目的に沿って、57Feを富化したEuFe2As2の純良単結晶を作製し、その単結晶を用いて磁場・圧力・低温の複合環境下で57Fe核共鳴前方散乱実験を実施することで、十分な精度の測定データを得ることができた。また、それぞれの条件下におけるスペクトルを解析し、得られた超微細相互作用定数からFeの3d電子空間分布についての知見を得ている。
基本的な研究計画に変更はない。作製したEuFe2As2の純良単結晶を用い、より広範囲の測定条件において57Fe核共鳴前方散乱実験を実施し、得られた超微細相互作用定数とその対称性から圧力相図の各相におけるスピンと軌道に関して研究を推進する。またEu2+サイトを非磁性であるSr2+に置き換えたSrFe2As2でも、同様の実験を行い、比較を行う。
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