研究課題
磁気熱量効果(MCE)はエントロピーの磁場微分を検出するため、磁場誘起の量子現象の研究に有効な物理量である。より精密な測定を通して、ウラン系スピン三重項超伝導、FFLO超伝導、量子スピンなど、磁場と強く結合している新奇量子相に適用し、独自の知見をもたらす。スピン3重項超伝導体では、複数の超伝導状態が磁場中で発現することがあり、その複数の相の中には多数の異なる超伝導秩序変数の合成状態になっている場合がある。そのような相では渦糸が分数量子化されている可能性が指摘されている。我々の交流磁場MCE測定では、本質的なMCEの他に、交流磁場による渦糸運動に起因する発熱成分を検出できる。我々のMCE測定により、スピン三重項超伝導体UTe2におけるb軸磁場中の中間磁場超伝導相において渦糸が動きやすくなっている事が分かった。この渦糸ダイナミクスをより詳細に調べるため、24Tの磁場までの直流電気抵抗による研究を行った。結果、中間磁場相において臨界電流が異常減少することを明らかにした。これは、分数量子ボルテックス状態におけるピニング力の低下の可能性があり、大変興味深い成果である。非従来型超伝導体では、多くの場合常伝導状態に非フェルミ液体状態という異常な金属相が見られることが知られている。特異な常伝導状態の解明は超伝導の機構解明に不可欠である。UTe2の25Tまでの強磁場における磁化測定を行い、dM/dT=dS/dTの熱力学的関係式を用い、エントロピーの解析を行った。b軸磁場方向ではメタ磁性転移によるエントロピーの増強が見られる。この磁場方向では超伝導転移温度(Tc)が磁場によりいったんは抑制され、15T程度の磁場以上でTcが上昇に転じるという非単調な磁場依存性が観測されている。エントロピーも15T以上で急増しており、このTcの非単調な磁場依存性と関係していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
希釈冷凍機を用いた極低温磁場中での温度計校正、交流磁場発生の確認や測定セルの作成が完了した。結果、極低温での磁気熱量効果測定の立ち上げることが出来た。この測定系を活用しUTe2において磁気熱量効果を測定した。その結果、渦糸のダイナミクスという予想していなかった成果も得られた。また、磁化測定とdM/dT=dS/dTの熱力学的関係式とdS/dHに関係する磁気熱量効果を用いてエントロピーの解析ができることを示した。その結果、UTe2の異常な超伝導転移温度の磁場変化がメタ磁性によるエントロピーの異常増大と関係していることを明らかにできた。以上、測定系の立ち上げは順調に完了しており、予想しなかった結果や磁気熱量効果に関係した新たな研究手法を開発することもできている。
今後は、立ち上げた測定系を用いてUTe2の研究を行う。特にb軸磁場方向は未解明の現象が多く存在し、磁気熱量効果による解明への貢献が期待できるため、その測定を進める。また、UTe2の超伝導研究には高磁場が必要であるため、強磁場施設での磁気熱量効果測定の開発に取り組む。
今年度は、高磁場施設での研究を優先させた結果、本研究で行う実験が当初計画よりも減少したため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は次年度分研究費と合わせて、購入を計画している実験用機器や消耗品の購入に係る経費として使用する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
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