研究課題
本研究では、エキゾチック超伝導体CeCoIn5が示す異常な超伝導物性「磁気変調を伴う超伝導相(Q相)」や「レゾナンスピーク」の機構と、それらに対する量子臨界揺らぎの役割を解明するため、CeCoIn5のZnイオンおよびNiイオン置換系に対して巨視・微視的研究を行っている。特に、イオン置換量を制御することによって、磁気秩序や非フェルミ液体状態の性質やそれと異常超伝導状態の相関を明らかにすることを目指している。初年度である本年度は、まずCeCoIn5のNiイオン置換系に対して極低温伝導測定を行うことにより、超伝導上部臨界磁場近傍に磁気的量子臨界点が存在する可能性があることを明らかにした。さらに磁気的量子臨界性の原因となる秩序変数は、Ni置換量増大によって超伝導相が抑制されてもその本質は変わらないことを発見し、この量子磁気揺らぎは超伝導秩序と競合的な性質を持つことを提案した。この成果は複数の国内学会で発表したほか、現在、論文として国際的な学術雑誌に投稿中である。さらに本年度は、CeCoIn5のZnイオン置換系に対し量子ビームである中性子を用いた極低温実験を行うことにより、超伝導相内に反強磁性量子臨界点が存在することを強く示唆する実験結果を得ることができた。また、量子臨界揺らぎや超伝導発現に寄与する磁気秩序のスピン構造を決定した。これらの結果は、超伝導相内に絶対零度での2次相転移である量子臨界点が共存でき、その周りでの量子スピン揺らぎは超伝導電子対形成と本質的に結びついていることを示す証拠であり、構造転移などの他の要素を含まない純粋な磁気量子臨界点が超伝導相と共存することを、強相関超伝導体で初めて発見した成果である。それら研究成果は大規模国際会議にて口頭発表したほか、国際的な学術雑誌に論文を投稿する準備を行っている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、CeCoIn5の様々な異常超伝導物性の起源やそれと量子スピン揺らぎとの関係性を理解するために、ZnおよびNiイオン置換系における量子臨界揺らぎの巨視・微視研究を国内外の共同研究者とともに展開することができ、それらに関する重要な知見を得ることができた。それらの成果は2編の学術誌論文として公表する準備段階にある。また、上記成果に関する国際会議等での講演を契機に、数件の新規国際共同研究を進めていくことになった。さらに、上記成果によって次年度以降に行うべき課題が明確になり、CeCoIn5の様々な異常物性の起源や量子スピン揺らぎとの関係性の包括的な理解に向け、推進できる状況にある。
今後の研究計画として、まずZn置換系に関しては、磁気秩序と超伝導秩序の相関に関する微視的な知見を得るために、量子臨界点近傍での中性子散乱などの微視測定を引き続き行っていく。また、共同研究者とともにミュオンスピン緩和や核磁気共鳴、角度分解光電子分光、表面物性測定などの実験を行っていく。Ni置換系に関しては、本年度発見した超伝導臨界磁場近傍における伝導異常を担う伝導キャリア特性を新たな実験によって明らかにしていく。これらの実験結果を得ることによって、本課題の目標であるCeCoIn5の様々な異常物性の起源に対する包括的な理解を目指していく。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Physical Review B
巻: 107 ページ: L220505-1-6
10.1103/PhysRevB.107.L220505