研究課題
銅酸化物高温超伝導体においては、超伝導転移温度以上の常伝導状態がどのようなものかは、未だ様々に議論されている。その解釈の一つに、秩序変数の振幅は有限であるが、位相が破壊されて常伝導状態が現れる、いわゆる「位相無秩序超伝導状態」が考えられている。その典型例であるKT転移では、KT転移温度以上において、渦と反渦が熱的に励起されるため超伝導の位相秩序が破壊され、「位相無秩序超伝導状態」が実現していると考えられる。しかし、KT転移による超伝導は、これまで二次元薄膜や、単原子層薄膜で観測されているが、バルクの高温超伝導体では、決定的に実証されていない。本研究では、バルク試料でのKT転移の観測を目的としている。23年度は、アンダードープBi-2223における超伝導転移温度近傍におけるI-V特性を観測し、V ∝Iαの関係より冪指数αを求めた。86K以上では、α= 1となり、電圧Vが電流Iに比例しているが、ゼロ抵抗で定義したTc = 78K以下でαは3を超える。このことは、超伝導転移温度直下でKT転移が起きていることを示している。次に、同じ試料の磁気抵抗率とホール抵抗率の温度依存性を測定した。磁気抵抗は高温超伝導体特有の裾を引く振る舞いを示し、15K~30Kまで有限の値を示すが、ホール抵抗率は、50K辺りで消失する。このことは、KT転移により生成された渦と反渦の存在を示唆する。渦と反渦が磁場印可によって生成される渦の数よりはるかに多く、渦と反渦がほぼ同数の時、磁気抵抗はこれらの寄与の足し算になるが、ホール抵抗はキャンセルアウトされるため、有限の磁気抵抗率と、ホール抵抗率の消失が観測されると思われる。
2: おおむね順調に進展している
23年度は、弘前大学から単結晶育成装置を移設してBi-2223単結晶の育成を行い、その輸送特性を調べた。IV特性およびHall効果の測定を行い、KT転移の可能性を見出した。その結果を物理学会およびInternational Conference on Quantum Liquid Crystals 2023、渦糸物理ワークショップにおいて発表した。また、分担者である弘前大学の渡辺が論文をまとめPhysical Review Lettersに投稿した。
24年度は、研究計画に基づき、ネルンスト効果の測定を行いたいと思う。また、分担者である京都大学の掛谷のもとでテラヘルツ複素伝導率の測定を行う。複素伝導率の虚数部分は超流動密度を意味しており、その超流動密度から位相スティフネス温度を見積もり、KT転移との関係を議論する。測定には良質なBi2223単結晶が必須となるが、大きな結晶の残りが少なくなってきたため、ネルンスト効果の測定が行えていない、結晶成長には約3カ月要するが、24年度中に良質の単結晶を育成し、研究計画を進めていきたい。
23年度購入予定であっPID式酸素分圧コントローラー(エスティーラボ) 型式:SiOC-200Sは、現在真空アニールで行っているため、今後更なるアンダードープサンプルを作製する必要が出てきた時に購入することとした。
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