研究課題/領域番号 |
23K03321
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
櫻井 敬博 神戸大学, 研究基盤センター, 助教 (60379477)
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研究分担者 |
大久保 晋 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 准教授 (80283901)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 熱検出ESR / 高圧下ESR / DAC / 二次元強磁性体 |
研究実績の概要 |
本研究は、(1)ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた高圧下熱検出電子スピン共鳴(ESR)測定技術の確立と、それを用いた(2)ファンデアワールス(vdW)力で積層した二次元強磁性体CrGeTe3の5 GPa以上における室温に向かう急激な強磁性転移温度の増大の起源解明、を目的としている。2023年度から2024年度前半においては主に(1)を、残りの期間において(2)を行う計画である。 DACを用いた高周波数強磁場下での圧力下ESR測定はこれまで例がなく、本研究では熱検出という手法を用いその測定手法を確立する。ポイントは、熱検出ESRでは、電磁波は試料に照射できさえすればよいので、試料空間の小さなDACであってもその測定が可能になる点である。今年度は(1)を進めるため、まず実体顕微鏡を購入し、DACセッティング技術を確立した。ダイヤモンドのキュレット径は1 mm、ガスケットは厚さ0.5 mm、内径0.5 mmのステンレス製である。これと並行して熱検出ESR測定技術に関し、同手法が一種の交流比熱測定であることを利用した圧力較正方法の確立に注力した。これは当初予定していたルビー蛍光による較正が、基本的には室温における較正であり、ヘリウム温度付近では室温で評価した圧力とは異なっている可能性があるからである。開発した手法は、ESR試料の裏側に貼り付けた超伝導体の転移温度を交流比熱測定により測定し、その圧力変化から圧力を評価するものである。開発の結果、ESR測定、超伝導転移温度の検出いずれにも成功し、新しい較正手法を含めた熱検出ESR測定技術を確立したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は概ね順調であると考える。圧力較正をより本熱検出ESRに適した手法で行えるようにしたことで、曖昧さのないESRの圧力変化を得ることが出来る。本圧力較正は端的には、熱検出ESRが一種の交流比熱測定を行っているという点を利用するものである。熱源はESRに用いる100 GHz程度の電磁波源である。ESR試料の裏側に銅箔を貼り付け、更にその裏側に超伝導体としての鉛箔、あるいはスズ箔を貼り付ける。電磁波は銅箔上でジュール熱になり、これが熱源となって超伝導体に伝わる。超伝導体の温度は超伝導体に直接接着した金鉄-クロメルの熱電対により測定する。実際に鉛の超伝導転移温度の検出に成功した。これにより超伝導転移の圧力依存性を利用した圧力較正が可能になる。ESR試料のESR測定はそのままのセッティングで共鳴磁場下での発熱により観測可能であることを確認した。この様に熱検出ESRの手法が圧力較正含め確立した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の結果を受け、今後はまずDAC中での熱検出ESR測定、圧力較正を行う。試料は直径0.5 mm程度のガスケット内にあるため、電磁波(周波数100 GHz以上、波長3 mm以下)は、細孔へとしみ出すエバネッセント波を利用する。半年ほどの期間を目処に測定を繰り返して条件を最適化し、DAC中の熱検出ESR測定技術を確立する。次いでCrGeTe3のESR測定を行う。様々な圧力下で、まず温度変化測定により共鳴磁場のシフト、線幅の変化から転移を確認する。そしてTC以下では幅広い周波数での測定により、強磁性共鳴モードのフィッティングから異方性エネルギーを精密に決定する。特にTCが増大する圧力付近で、異方性エネルギーがゼロになるのか、あるいは急激な増大を示すのか等、振る舞いを詳細に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度分の申請額1,800千円に対して配分された直接経費が1,300千円であったが、実体顕微鏡(1,073千円)は購入しなければ本研究は進められず、従って旅費を削減する等、残額の使途を計画から大幅に変更せざるを得なかった。節約して研究を進めた結果、わずかに次年度使用額(17千円)が生じた。次年度以降に有効に活用する。
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