研究課題/領域番号 |
23K03323
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
川崎 慎司 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (80397645)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 銅酸化物高温超伝導体 / 核磁気共鳴 / 一軸ひずみ / 電荷密度波 |
研究実績の概要 |
本研究で着目する銅酸化物などの強相関電子系化合物では、それらの結晶構造のうち正方格子やカゴメ格子など二次元面構造で非従来型超伝導が発現するのが特徴である。とりわけ銅酸化物においては二次元CuO2面内で異方的電子対を持つd波超伝導が現れ、二次元結晶対称性との関係が注目される。これまで物性物理において電子状態を調べる外部パラメータは磁場や静水圧が中心で、そもそも超伝導状態と面内結晶対称性の関係を直接調べる外部パラメータが無かった。本研究では極低温における熱収縮の影響を最小化出来るように独自にデザイン/開発したピエゾ駆動型一軸ひずみ発生装置を用いて単結晶試料に圧縮/引張ひずみを加え、面内結晶対称性の破れと非従来型超伝導の関係を直接調べている。本研究計画初年度は、ともに非従来型超伝導と背景に現れる電荷密度波との関係が注目されている単層型銅酸化物Bi2Sr2-xLaxCuO6の最適ドープ試料(Bi2201,x=0.162, Tc=32K)及び、カゴメ超伝導体CsV3Sb5(Tc=3K)において一軸ひずみ下核磁気共鳴/核四重極共鳴実験を行い、以下の結果を得た。まず、Bi2201においては圧縮および引張ひずみでCuO2面の結晶対称性を破ると対称的に超伝導が抑制されることがわかった。またひずみが0.15%を超えるとひずみ誘起の長距離CDW秩序が現れることを明らかにした。次にCsV3Sb5ではカゴメ格子に対する超伝導のひずみ応答はBi2201と異なり圧縮でTcが抑制され引張では逆にTcが上昇する非対称応答が見られた。Tcが上昇したひずみ量では、Tc直下のSb核の核磁気緩和率の増大(コヒーレンスピーク)が抑制され、超伝導対称性がひずみに応答をする結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では実験に「一軸ひずみ」という新しい外部パラメータを導入するにあたり、一軸ひずみ発生装置の開発も同時並行で行うなど一部挑戦的な課題を設定していた。しかし想定以上に装置開発が進展し、一軸ひずみ下の核磁気共鳴実験を前倒しで進めることが出来た。したがって研究初年度ではあるが、単層型銅酸化物Bi2201超伝導体においては当初の研究計画に掲げた、不足ドープ、最適ドープ、超過剰ドープ試料での研究実施計画のうち、最適ドープ試料における一軸ひずみ下核磁気共鳴実験は計画を初年度で完遂することが出来た。さらに得られた結果を原著論文としてまとめ昨年度後半に投稿済みである(査読中)。また、当初計画には入っていなかったが、最近、時間反転対称性を破る電子状態の存在が注目を集めているカゴメ超伝導体CsV3Sb5の一軸ひずみ実験に取り組み、得られた結果を昨年度末の日本物理学会春季大会にて口頭発表で報告した。本研究の当初計画では初年度で原著論文投稿まで進捗するとは想定しておらず、本研究は当初の計画以上に進展しており、今後の飛躍的発展も期待できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究初年度に得られた成果を原著論文として投稿できたことは、本研究で用いている独自開発した「一軸ひずみ発生装置」が新しい外部パラメータとして有効に機能していることを証明するものであり、今後も当初計画に沿いながらも当初計画に無い物質に対しても研究対象を広げ、一軸ひずみによる人工的結晶対称性の破れを利用して超伝導を始め強相関電子系におけるエキゾチックな電子状態、電子機能の機構解明に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、研究計画の一つであった「一軸ひずみ発生装置の開発」が想定よりも早く進展し研究初年度で開発が概ね完了したため開発費を当初予定より節約できた。また、装置開発が前倒しで完了したことにより、研究計画も前倒しとなり、当初予定よりも実験にかかる経費が増える見込みである。したがって初年度の余分は液体ヘリウムや窒素など低温寒剤を中心に次年度以降の実験に余分にかかる見込みの消耗品費として支出する予定である。
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