研究課題/領域番号 |
23K03337
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
武野 宏之 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (70302453)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | コンポジットゲル / 多孔質ゲル / 凍結・融解サイクル / 細胞足場材 / 幹細胞 / セルロースナノファイバー |
研究実績の概要 |
セルロースナノファイバー/ポリビニルアルコール/四ホウ酸ナトリウムコンポジットハイドロゲルの力学物性と構造における冷凍・解凍サイクルの効果について調査した。その結果、冷凍・解凍サイクル回数の増加とともにゲルの力学性能が大いに上昇することが確かめられた。冷凍・解凍処理を繰り返すことは力学強度の増加のみならず、伸長度の増加にも寄与することが確認された。これらのゲル構造を調査した結果、冷凍・解凍サイクル回数の増加によって、ポリビニルアルコールの結晶化度が増加し、ゲル化率は増加、膨潤度は低下した。また、ゲルのネットワーク構造は、凍結・融解サイクル回数を増加させると、多孔性かつセルロースナノファイバー、ポリビニルアルコールの濃度が高い連続相(ネットワーク構造)に変化した。トラウザー法を用いて、このコンポジットゲルの引き裂きエネルギーを評価した結果、2.8 ~ 6.6 kJ/m^2と大きな値を示した。この値は典型的なゲルの引き裂きエネルギー値の数百倍に相当し、このゲルの大きなタフネス性能を証明した。さらに、このセルロースナノファイバー/ポリビニルアルコール/四ホウ酸ナトリウムコンポジットゲルの細胞足場材としての可能性を検討した。その結果、ゲルに臍帯間葉系幹細胞が接着することが示された。 化学架橋剤を用いて架橋させたカードラン/ポリビニルコンポジットゲルが多孔質性のハイドロゲルであることを示した。このコンポジットゲルは、スポンジ的な物性を示し、繰り返し圧縮に対して、力学物性がほとんど変化しないことが確かめられた。このゲル材料を用いて、幹細胞の足場材としての能力を調査した。その結果、このゲル上で幹細胞が付着し、軟骨細胞に分化することが確認された。このゲルは、急速膨潤・凍結融解処理に対して物性変化が影響を受けないことから、凍結乾燥状態での長期保存が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セルロースナノファイバー/ポリビニルアルコール/四ホウ酸ナトリウムコンポジットハイドロゲルに対して、冷凍・解凍処理を繰り返すことで、多孔質ゲルが作製可能であることを確認し、また、5回、10回冷凍・解凍処理を施したハイドロゲルの伸長強度が約2MPa,伸長度が1100%以上と優れた力学物性を示すことが確認できた。さらに、このゲルの引き裂きエネルギーの値も非常に大きいことが確認され、このゲルのタフネスを証明することができた。このようにして、本研究の目標の一つである「細胞培養に必要な多孔性のネットワークを有し、かつ力学的にタフなコンポジットハイドロゲルの作製方法を確立すること」を達成することができた。なお、凍結・融解サイクルを繰り返すことでネットワーク状の高分子濃縮相(相内にはセルロースナノファイバー、ポリマーが濃縮)が形成されたことが、優れた力学物性性能の要因であると考えられる。さらに、このコンポジットゲルのバイオマテリアルとしての可能性を調査した。その結果、このコンポジットゲル上で幹細胞が生存したまま、付着できることが示され、このゲルに生体適合性があることが確認された。 化学架橋剤を用いて作製したスポジンジライクな多孔質性カードラン/ポリビニルアルコールコンポジットゲルに対して、幹細胞の付着、増殖、軟骨細胞への分化を確認することができた。このようにして、「バイオマテリアルに必要な条件を満たす構成要素から成る多孔性でタフなコンポジットハイドロゲルの簡便な作製方法を確立すること」というもう一つの研究目標も達成できていると考える。 このようにして、現時点で本研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、セルロースナノファイバー/ポリビニルアルコール/四ホウ酸ナトリウムコンポジットハイドロゲルの優れた力学特性と生体適合性を確認することができた。さらにバイオマテリアルとしての本コンポジットゲルの有用性を確認するために、今後、細胞の増殖や軟骨細胞への分化を調査する予定である。凍結・融解サイクルを繰り返すことで、より大きなサイズの孔をもつゲルを作製することができた。これらの構造変化がもたらす細胞増殖・軟骨細胞分化への影響を確かめるために、細胞増殖・軟骨細胞分化における凍結・融解サイクル依存性を調査する予定である。上述のように、凍結・融解サイクルは多孔性のゲル構造を作製する手法として有用であることが確認されたが、作製に手間を要する。別の手法で、多孔性のハイドロゲルを作製することを検討し、作製できたゲルに対して、そのゲルの生体適合性・細胞接着性・増殖性を調査する予定である。これらがうまく進展した後、軟骨細胞などへの分化が可能かどうか調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会をオンライン発表で行ったため、旅費が予定よりも少なく済んだため。次年度に繰り越された予算は、論文原稿作成の際の英語校正費用の一部に充てる計画である。
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