研究課題
今年度はタングステン試料中の初期欠陥の除去を目的とした高温アニールと、アニール後に一部の試料について陽電子寿命の同時計測は行わないオフラインで電解水素チャージを行った。純度99.999%、厚さ0.8 mmのタングステン板から10 mm角試料を複数枚切り出した。次に真空中で約2200℃で15分間のアニールを施した。アニールした試料は、カプトン箔で密封されたNa-22陽電子線源を用いた従来法による陽電子寿命測定装置により陽電子寿命を計測し、陽電子寿命スペクトルには無欠陥バルク成分と線源成分(カプトン箔成分)のみしか含まれないことを確認した。アニールした試料のうち一部は、5 g/LのNH4SCNを含む0.1 mol/LのNaOH水溶液中で電流密度5 mA/cm2で10日間の電解水素チャージを行った。未チャージ材および水素チャージ材について、分子科学研究所・極端紫外光研究施設でガンマ線誘起陽電子消滅寿命分光法による陽電子寿命計測を行った。未チャージ材からはNa-22陽電子線源を用いた従来法の結果とは異なり、無欠陥バルクの陽電子寿命成分(100 ps ± 1 ps)が強度97.5%±0.5%で観測されたのに加え、第2成分として空孔クラスターに由来すると考えられる342 ps ± 39 psの陽電子寿命成分が2.5%±0.5%の強度で観測された。この陽電子寿命成分がNa-22陽電子線源を用いた従来法で検出できなかったのは、カプトン箔の陽電子寿命(約380 ps)と近いために線源成分と区別がつかなかったことによると考えられる。次に、水素チャージ材では第2成分の陽電子寿命が261 ps ± 22 psと短くなり、その強度は4.5%±1.0%に増大した。この第2成分の変化は、水素チャージによる空孔-水素欠陥複合体(陽電子寿命200 ps未満)の形成によりもたらされた可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
10日間の水素チャージ処理の前後で陽電子寿命スペクトルに僅かながら変化が生じることが確認できた。一方で、最新の計測手法を適用したことでタングステン中には2200℃でのアニール後も空孔クラスターが除去しきれず残存することも明らかになった。
今後、水素チャージしながら陽電子消滅測定を行うための実験セットアップの準備を進める。また、スペクトル解析においてはアニールにより除去しきれなかった空孔クラスターの存在に留意して進める。
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