研究課題/領域番号 |
23K03372
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
篠原 正典 福岡大学, 工学部, 教授 (80346931)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | pulse plasma / source molecules / styrene / decomposition / graphene / carbon nanowall |
研究実績の概要 |
分子量の大きい分子を原料分子としてパルスプラズマ放電により、分子を分解して成膜を行う方法を検討した。パルスプラズマは、HiPIMS(大電力インパルスマグネトロンスパッタリング)用のカソードを用いて、カソードの中のカーボンターゲットに高電圧のインパルスを印加して、プラズマを生成を試した。まずは、水素、アルゴン中で印加電圧などをかえてプラズマの生成に成功した。次に、分子量の小さいアセチレン(C2H2)をチャンバーに導入した後、高電圧のパルス電圧を与え、プラズマが生成することを確認した。さらに、分子量の大きいスチレン(C8H8)、ジエチルエーテル(C4H10O)でも同様の実験を行い、プラズマの生成を確認した。パルス電圧は1kV近い高電圧を与えているため、高密度のプラズマが生成されているはずであるが、パルスプラズマは定常状態ではないためプラズマ密度は求めらないようである。一方、プラズマ中で供給された分子の状態の計測を行うために、シリコン基板上に室温で堆積された堆積物の化学結合状態を赤外分光測定で調べた。その結果、プラズマ中に、供給された炭化水素分子は分子中の炭素の2重結合、ベンゼン環の構造は分解され、炭素は単結合状態のCH結合、CH2結合やCH3結合が計測された。次に、基板温度をかえて堆積される膜の構造の変化を調べた。その結果、基板の温度のちがいにより、アモルファアス上の炭素膜、グラフェン、カーボンナノウォールが形成されることがわかった。ここで、グラフェンは基板と平行にベンゼン環が並んだ構造であり、カーボンナノウォ―ルはベンゼン環が基板に垂直に並んだ構造である。プラズマで生成される化学種は同じであるが、基板温度により、堆積される膜の構造が変わることがわかった。今後さらに、成膜条件をかえて、成膜の制御法を探索していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
パルスプラズマでスチレンなど分子量の大きい分子を原料としたプラズマ化学気相堆積法の実験をすることができた。プラズマ中で原料分子は分子中の2重結合、ベンゼン環構造は分解されるものの、シリコン基板の温度を上昇させると、カーボンナノウォール、グラフェン等の構造が形成できることを示した。ここで、シリコン基板上には触媒となる金属を置くなどをしないで、シリコン基板上に直接グラフェンを成長させることができたことは、これまでにシリコン基板上にグラフェンを550℃で形成することができたという報告例はあるので、現在のトップデータに追随できたことを意味する。本研究で用いているHiPIMSのカソードは、印加する高電圧のほかに、印加される電流値も変えることができるため、今後、条件を最適することにより、より低温でのグラフェンの成長ができることを期待させるものである。さらに、カーボンナノウォールからグラフェンへの変異についてはこれまで不明点が多かったが、本研究により、その変異の一端がつかめたものと考えられる。以上のことより、期待以上、計画以上の進展があったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで基板温度のほかに、HiPIMSのプラズマ生成の際に印加する高電圧、印加される電流値の制御を行ってきた。しかし、まだまだかえるべきパラメータは多く、パラメータをかえることによる成膜状況の変化については十分に調べていない。カーボンナノウォールからグラフェンへの変異を昨年度明らかにできたように、これまでわかっていない膜形成の変化について、調べていきたい。もちろん、これまでに明らかにできたことは、論文発表を行っていきたい。 残る期間で印加バイアスによる効果を調べていきたい。基板に負バイアスを印加する方法は、現在の実験装置ではシリコン基板に直接電流を流す通電加熱方式を採用しているために、なかなか難しい。それゆえ、どのようにすれば負バイアスを基板に印加できるかについて考えたい。現在、通電加熱を行うシリコン基板の周りにメッシュを設置し、そのメッシュに負バイアスを印加するか、チャンバー内にシリコン基板を固定するサセプタを新たに作り、そのサセプタに加熱機構・基板バイアス印加装置をつけるなどを検討している。最適な方法を検討をしていきたい。 さらに、残る期間で、高温で状態の基板上での膜堆積・膜成長過程をその場・実時間で計測できる方法についても検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定よりもはやくグラフェンが成長できるという思わぬ結果をえたため、装置を改良すべきところと改良すべきではないところをはっきりさせる必要があり、その検討に時間がとられた。そのため、当初、高い基板温度を想定し基板フォルダー(サセプタ)の加熱機構、基板への負バイアス印加機構の改良に使用しとした予算を執行できなかった。しかし、現在、グラフェン成長に適した基板温度領域は600℃程度であると決定できた。そこで、令和6年度は、令和5年度で明らかにできた温度領域での加熱機構の取り付け、および基板バイアス機構の取り付けを予定しているので、その費用に充填したいと考えている。
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