研究課題/領域番号 |
23K03418
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鈴木 博 九州大学, 理学研究院, 教授 (90250977)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 厳密繰り込み群 / 一般化された対称性 |
研究実績の概要 |
当該年度は、大きく分けて、我々が定式化したゲージ対称性を明白に保つ厳密くりこみ群(GFERG)の応用、および一般化された対称性に関連した概念の格子正則化での実現の研究を行った。前者については、まず、カイラルアノマリーのGFERGでの特徴づけを考え、それが一般に厳密くりこみ群における複合演算子(composite operator)になっていることを示した。これは、カイラルアノマリーが厳密くりこみ群変換のもとできれいな変換性を示すことを意味しており、近年盛んに議論されている't Hooftアノマリーのくりこみ群不変性に対応していると考えられる。さらに、GFERGの非摂動論的な応用として、U(1)ゲージ化された南部-Jona-Lasinio模型にGFERGを適用し、そのくりこみ群の流れ、特に固定点の存在とその周りでのスケール次元を解析した。これは、電磁相互作用の結合定数については摂動的な扱いだが、従来の研究に比較してゲージ対称性を保った計算であることの確かな優位性を見ることができる。この結果については、今後発表予定である。後者の研究では、1-form対称性のゲージ場('t Hooftフラックス)が存在する場合の分数トポロジカル電荷の格子ゲージ理論での定式化の研究、't Hooft lineを格子上で定義するための「穴開け法」(excision method)の研究、フェルミオンから来るU(1)カイラルアノマリーに付随した非可逆対称性演算子のU(1)格子ゲージ理論での構成などの研究を行なった。最後の研究に関連して、ごく最近、非可逆対称性演算子が't Hooft lineにどのように作用するかを、格子ゲージ理論(modified Villain formalism)に基づいて詳細に解析した。その結果、従来議論されていたのとは異なり、全く作用を及ぼさないという注目すべき結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上で述べたように、かなり多くの題材に関して、新しい知見を得ることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
上で述べたように、GFERGの非摂動論的な応用としてU(1)ゲージ化された南部-Jona-Lasinio模型への適用を考えたが、従来の研究と比較して、我々の取り扱いは4 Fermi相互作用の種類が一つ少ないものであることが分かっている。今後この点を改良した計算を進め、ゲージ対称性を保った厳密くりこみ群の優位性を示した論文を発表したい。また、GFERGはゲージ対称性を明白に保つ厳密くりこみ群として提唱したものだが、具体的な摂動計算を行うと、ゲージ固定がない場合には定式化が発散を含んでいるように思われる。もしこれが本当だとすると、ゲージ固定、さらにはFaddeev-Popovゴーストの導入が予期され、他方厳密くりこみ群はBRST対称性を明白に保つことが困難であるため、GFERGの優位性が大きく損なわれると予想される。このゲージ固定の必然性の問題を明確にすると同時に、ゲージ固定は必要だがFaddeev-Popovゴーストが必要ないとされる確率過程量子化での機構の理解とそのGFERGへの応用の可能性を探りたい。一方、一般化された対称性に関連した概念の格子ゲージ理論での実現に関連しては、U(1)カイラルアノマリーに付随した非可逆対称性演算子の構成を、非可換ゲージ理論の場合にも拡張する。これは、QCDのフレーバーnon-singlet axialカレントのアノマリーに付随した非可逆対称性演算子を構成することになり、Adler-Bardeen定理などとの関係で興味深いと考えている。また、adjointフェルミオンの指数がなぜ1-form対称性のゲージ場('t Hooftフラックス)の存在をdetectできるのかを明確にする計算、また、格子ゲージ理論で構成するカイラルアノマリーに付随した非可逆対称性演算子の物理的な問題、特に't Hooft lineが関与する問題、への応用を考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
少し大きめの計算機の購入を予定していたため、余裕をみて次年度使用額を残した。
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