研究課題
質量分析計によるネオン同位体測定においては、干渉イオンとなり測定を妨害するアルゴンを除去する必要がある。本研究では、「大気を分離膜に透過させることによりネオンをアルゴンから分離する手法の確立」、および「惑星探査(特に火星探査)条件下における大気ネオン計測システムの仕様案の構築」を目指している。これまでに行っている透過実験により、ポリイミド膜を分離膜として用いて大気を透過させることにより効率的にネオンとアルゴンとを分離できることを見出している。本手法を惑星探査に適用するには、分離能力の温度依存性、機械的強度、環境への耐性の確認、および装置の小型化も必要である。本年度は、メタルガスケットを用いてポリイミド膜(厚さ100μm、面積28cm2)をチタン製フランジに固定して、一旦膜の両側を真空引きした後、大気を40-60分間透過させて透過したヘリウム、ネオン、アルゴン量を四重極型質量分析計にて測定した。いずれの透過実験においても透過後のアルゴン量はバックグランドレベルに近く有意な透過は見られず、透過後のネオン/アルゴン比は高まった。また、室温から-38℃までの温度範囲で透過実験を行い、ポリイミド膜がリークすることなくフランジに保持されること、-38℃でのヘリウム, ネオン透過量は、室温時の1/6, 1/8であること、が明らかになった。ポリイミドを固定したフランジの衝撃試験や振動試験も行い、惑星探査で想定される条件においてはリーク等の問題は発生しなかった。火星表層大気圧は地球大気圧に比べて約1/150で、大気中のネオン存在度も低いため、火星大気ネオンの測定においては、膜面積を増やすことやアルゴンのバックグランド(測定装置由来のアルゴン)を低減させることが必要であるので、その対応方法を検討している。
2: おおむね順調に進展している
透過特性を調べる基礎実験として、ポリイミド膜に地球大気を透過させて透過したネオン、およびヘリウム、アルゴン、二酸化炭素を質量分析計で測定した。同一条件下での透過の再現性、低温下における透過特性の変化、振動や衝撃に対する強度の確認を行った。これまでの実験においては、ポリイミド膜を用いたネオン-アルゴン分離法に大きな問題は見つかっておらず、予想していた透過特性を示す結果が得られている。ポリイミド膜をフランジに固定する方法も試験段階ではあるがこれまでのところ良好である。引き続き、惑星探査に近い条件での透過測定を行う計画である。また、透過測定に用いている実験装置の改良を行うべく準備を進めていて、真空ポンプ、バルブ、配管などの多くは納品済/発注済であるが、一部についてはこれから設計および手配予定である。以上の進捗は概ね当初の研究計画どおりと考えている。
これまで行った透過測定は、一例を除いて地球大気を透過させた測定であるので、今後は圧力が低い場合や火星大気を模擬したガスでの透過測定を行っていく計画である。その際に課題となるのは、測定装置のバックグランド(特にネオン、アルゴン、二酸化炭素)を低減させること、そのために探査機搭載用質量分析計を開発するグループとも情報交換を行うこと、火星着陸探査検討コミュニティーに参加し装置開発における制約事項(装置重量、電力量、温度耐性条件など)について情報共有すること、なども必要であると考えている。惑星探査に用いることのできる真空ポンプや真空用バルブの調査も進める。これらの課題を着実に克服していくことが重要である。
研究室に設置している基礎実験用の測定ラインを整備する計画であるが、分離膜としてのポリイミドの有用性を確認することも重要課題であるため、本年度はまず基本的な透過測定を行うことを優先した。その結果も参考にして、真空ポンプの準備や配管設計を進めているところである。主要な機器(真空ポンプや真空ゲージなど)は納品済または発注済である。数年前と比較すると真空関連の機器・部品の価格は値上がりし、納期も長くなっている。特に海外からの輸入品では顕著であり、汎用品と思われるものでも納期に半年かかるケースがある。3年間で実施する予定の本研究計画に大きな支障はないと見込んでいるが、計画的に立案し遂行したいと考えている。
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Meteoritics & Planetary Science
巻: 59 ページ: 321~337
10.1111/maps.14121