研究実績の概要 |
本年度はCr同位体比によるベスタ起源隕石の検証と分析鉱物試料の調整を行った。まず、分析に用いるHED隕石(特に同位体組成の報告がない砂漠隕石)が本当にベスタ起源隕石であるかを検証するため、複数のHED隕石(Millbillillie, NWA 12338, NWA 11247, NWA 11455)のCr同位体比分析を行った。本年度はHED隕石の高精度Cr同位体比分析の確立を目的としたため、岩相がシンプルな玄武岩質ユークライトおよび集積岩ユークライトを用いることとした。粉末化したHED隕石を高圧高温酸分解容器を用いて完全分解し、DGA-normalレジンおよび陽イオン交換樹脂を用いた3段階の化学分離によりCrを分離・精製した。精製したCrをタングステンフィラメントに塗布し、表面電離型質量分析計(MC-TIMS, TRITON plus)を用いてCr同位体比分析を行った。今回分析したHED隕石のε54Cr(54Cr/52Cr比の標準物質からのずれを10,000分率で表したもの)は一般的なHED隕石の文献値(ε54Cr = ~-0.6 - -0.8)と誤差範囲で一致していることが確認された。 一方で、HED隕石およびメソシデライト隕石から分離したジルコン粒子の(U-Th)/He年代分析の確立に向けた実験を行った。まず、ジルコン粒子のHe同位体を測定した後、ジルコン粒子を加熱炉から回収することを可能にするため、従来のアルミ箔の代わりに高純度ニッケル箔を使用することにした。このニッケル箔は1000℃までの加熱で形状が変化せずHeのブランクが十分に低いことが使用の条件であったが、これらの条件を満たすことが実際の加熱実験から確認された。また、ジルコン粒子のU-Th濃度は完全分解後に同位体希釈法を用いて分析することを予定しているため、UおよびThのスパイクの調整を行った。
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