研究課題/領域番号 |
23K03505
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
戸丸 仁 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (80588244)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ガスハイドレート / 対馬海盆 / 有機物 / 珪藻 |
研究実績の概要 |
平成28~30年度に対馬海盆で行われた海洋調査で、吊り下げ式ピストンコアラー(全長<8 m)を用いて回収した堆積物コア(高知大学海洋コア国際研究所で保管)の観察および調査時のコア記載の確認を行った後、堆積物の化学分析と微化石分析等に使用する試料を連続採取した(対馬海盆南東部の合計10か所)。これらの試料を用いて、堆積物に含まれる全有機炭素量(TOC)と全窒素量(TN)の測定、珪藻化石による環境解析を行った。TOCとTNの測定は千葉大学園芸学部のCNコーダー(MT-700、ヤナコ分析工業)を用いて、珪藻化石解析は千葉大学理学部で実施した。 その結果、堆積物浅部(<3 ka、海底面下約20 cmに相当)でTOCとTNが深部から浅部に向かって不連続に増加するギャップが見られた。ギャップ上位のTOCとTNはそれよりも下位の値と近いことから、地すべり等によって、古い時代の堆積物が本来の層準よりも浅部に再堆積した可能性を示唆する。また、珪藻化石の解析からは、水深や生産性、水温を反映する種の割合が深度で大きく変動していること、それらの組み合わせから、堆積物は大きく3つの時代に区分されることが明らかになった。特に高い生産性や温暖な海洋環境を反映する種は、TOCのギャップがみられる層準以浅で卓越(逆に浅海種は減少)していた。これらの結果は、地すべり等による堆積物の上下方向の擾乱が、温暖化に関連した海洋環境の変化によって引き起こされた可能性を強く示唆するものである。 また、本研究計画最終年度に行う予定であったモデリングの基本となる、堆積物中のガスの移動量に関するシミュレーションを前倒しで行った。南海トラフでの掘削試料を用いたデータを対馬海盆にも適用し、堆積物中のメタン濃度の時系列変化を可視化することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
解析に必要な堆積物試料を分取し、TOCとTN分析からは堆積環境が変化した時期(層準)の特定が可能なこと、珪藻化石解析からは堆積物コアの比較的長期的な堆積環境の連続性(局所的な変動を除くと、コア全体の上下関係が乱されていることはないこと)が確認された。特にTOCとTNの高頻度分析で、堆積環境の連続性と地形崩壊のタイミングが議論できることが明らかになったことから、水深や微地形が異なる地点の堆積物コアを同等の精度で比較することによって、本研究計画の作業仮説である、環境変化によるガスハイドレートの溶解や生成の影響が堆積物に記録されているということが証明された。
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今後の研究の推進方策 |
海洋環境の変化とガスハイドレートの溶解や生成との関連性が堆積物に記録されている(今年度採取した堆積物コアがその変化を記録している)ことが確認されたので、今後は、1)火山灰や有孔虫の14C年代による堆積モデルの高精細化、2)堆積物中の鉱物や有孔虫など、メタンフラックスの変化を記録する要素の分析、の2点から海洋環境変動とガスハイドレートの安定性(メタンフラックスの変化)に関する考察を進める。また、堆積物中のガスの移動量に関するモデリングに必要な、過去の対馬海盆の堆積環境を反映するような基礎データ(堆積物の物性、海水中のメタンの挙動と濃度分布、過去のメタン湧出を反映するガスチムニーや炭酸塩の化学分析)を積極的に収集し、実試料解析とモデリングの融合を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初研究費では最も大きな経費であった色彩色差計の購入は、研究経費全体の縮小により研究全体を圧迫することになるため購入を断念した(データ頻度は低下するが、試料採取時のコア記載の記録を参考値として採用する)。また、試料保管用の冷蔵庫は、所属機関からの省エネ機器の購入に関する補助を受けることができたため、費用を圧縮できた。試料保管用の冷凍庫は、別途入手した凍結乾燥機を用いることによって、分析用の処理の手間は増えるが、常温保存することができるようになったため、購入を見合わせた。今年度は試料採取及び保管環境の整備に係る経費が大部分を占めたが、これらを圧縮、代替したため、次年度以降の分析を密に行うための費用とする予定である。
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