研究課題
本研究の主目的は海洋コアコンプレックス(OCC)を構成する下部地殻斑れい岩類と最上部マントルかんらん岩における変質作用の物理化学的および地質学的要因を明らかにすることにある。この目的を達成するために,本研究代表者は令和5年4月から6月にかけて実施された国際深海科学掘削計画(IODP)第399次航海に乗船研究者として参加した。この航海では典型的なOCCの一つである大西洋中央海嶺近傍のアトランティス・マッシフにおいて海底下1200mを超える掘削に成功した。採取試料の約70%が蛇紋岩化かんらん岩,約30%が斑れい岩類であった。この掘削孔は,海洋底のマントルかんらん岩を主とする岩盤の掘削孔としては史上最大深度に達するものであり,いまだかつて人類が目にしたことのない深部の岩石が採取できたことによって世界的に注目を集めている(例えば Science:2023年5月,USA Today:2023年6月のニュース記事)。学術的には,これらの岩石の分析によって地球の進化や生命の起源に関する重要な情報が得られるものと期待されている。本研究代表者は船上において,蛇紋岩化かんらん岩と斑れい岩の相互関係,変形構造,熱水脈の分布とクロスカット関係,および変質鉱物の分布と産状などをつぶさに観察することができた。その成果はIODPの報告書(IODP Preliminary Report)の一部として2024年3月に公表され,また国際学術誌に投稿された(現在査読中)。さらにより詳細な報告書(IODP Proceedings)を2024年内に公表すべく準備中である。掘削試料は乗船研究者に優先的に配分されるのがIODPのルールであり,航海後に各国の研究室で詳細な分析が行われる。岡山大学においても配分された試料の分析を始めたところである。
2: おおむね順調に進展している
IODP 第399次航海では,アトランティス・マッシフの斑れい岩と蛇紋岩化かんらん岩を海底下1260mまで掘削することに成功し,詳細な岩石記載を実施することができた。また下船後に配分された試料の顕微鏡観察と化学分析も順調に進行している。
今後も引き続きIODP第399次航海で得られた掘削試料の顕微鏡観察と化学分析を進め,必要に応じてラマン分光分析を行う。アトランティス・マッシフでは過去の航海でも掘削が行われており,本研究代表者の手元には第305次航海の掘削孔から採取された試料がある。これら新旧の掘削試料を分析し比較することで,アトランティス・マッシフにおける変質作用の空間的・時間的変化を捉える。さらにこれまでに研究されてきた他のOCC(例えば南西インド洋海嶺近傍のアトランティス・バンク)における変質作用との比較を行う。
IODP第399次航海の掘削は順調に進み,予想以上に多くの深部岩石試料が採取できたため,国際的な関心が高まっている。そこで乗船研究者一同で合議し,取り急ぎ船上研究の成果をまとめて国際学術誌に発表することで合意した。本研究代表者も船上で得られたデータの取りまとめと考察,および論文の原稿執筆を優先し,下船後の分析や国内学会発表を先延ばしすることにし,それに係る経費も次年度以降に回すことにした。次年度以降にはそれらの費用も含めて適切に使用していく予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
International Ocean Discovery Program Preliminary Report
巻: 399 ページ: 1~56
10.14379/iodp.pr.399.2024