研究課題/領域番号 |
23K03535
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
小園 誠史 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 火山防災研究部門, 主任研究員 (40506747)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 火道流 / 爆発的噴火 / 噴火予測 / 混相流 / 地殻変動 |
研究実績の概要 |
本研究では、爆発的な火山噴火の準備・開始過程を、プラグ形成を伴う火道流のダイナミクスとして捉え、噴火の準備から開始までをすべて統一的に再現できる火道流数値モデルを開発し、その解析に基づき、爆発的噴火が開始するまでの火道内の物理量変化の特徴や、爆発的噴火の開始の予測を可能にする観測手法を提案することを目的としている。本年度は、マグマ上昇中に高粘性流体から固結したプラグに遷移する条件を考慮した一次元定常火道流数値モデルを開発した。モデルの構築にあたっては、火道流のダイナミクスを強く支配するマグマ上昇中のマグマ粘性変化、結晶化、発泡過程について、マグマ組成や温度の影響を考慮した岩石熱力学的シミュレーションに基づく厳密な定式化を行なった。また、結晶の量や形状、歪速度がマグマのレオロジーに与える影響についての最新の知見を反映した物性モデルも火道流モデルに組み込んだ。このモデルを用いて、本年度は特に桜島のブルカノ式噴火を対象とした解析に取り組んだ。解析においては、火道流の力学系を規定する定常火道流におけるマグマ溜り圧力と火道内マグマ流量の関係を示す曲線(定常P-Q曲線)を求めた。この曲線の勾配が正の領域に存在し、かつマグマ溜り圧力がリソスタティック圧になっている安定な火道流を、ブルカノ式噴火前の準備過程における火道内のマグマの状態として選定した。その火道流には、浅部固体プラグの直下に局所的な過剰圧が生成される特徴が見られた。また、マグマからのガス分離浸透率が小さく、火道半径が大きく、またマグマ粘性を支配する結晶のアスペクト比が小さいほど、火道内の発泡度が増加し、過剰圧が大きくなることがわかった。この過剰圧は、傾斜・歪観測によって検知される噴火前の前駆的な地盤変動をもたらす可能性があり、本研究の結果は観測による噴火開始の検知を評価する上で火道流の影響を考慮することの重要性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、補助事業期間中の研究実施計画として、プラグ形成過程を考慮した火道流数値モデルの構築(課題A)、そのモデルを用いた定常P-Q曲線の精査(課題B)、定常P-Q曲線内で生じる火道流の時間発展変動の解析(課題C)、さらに、火道流による周囲地殻の弾性変形・地表変位量のモデル計算と実観測データとの比較(課題D)という4つの課題を設定している。このうち本年度は課題AとBに取り組み、課題Aで構築したモデルを用いて、桜島におけるブルカノ式噴火前の準備過程における火道内のマグマの状態を明らかにした。また、課題Bにおける定常P-Q曲線の精査によって、火道内の過剰圧分布などの特徴のパラメータ依存性を系統的に明らかにすることができた。この成果の一部は、地球物理学的・岩石学的観測データと火道流モデリングに基づき桜島のブルカノ式噴火における火道システムを調べた論文として、本年度国際誌に掲載された(Nishimura, Kozono et al., 2024)。「爆発的噴火が開始するまでの火道内の物理量変化の特徴や、爆発的噴火の開始の予測を可能にする観測手法を提案する」という本課題の最終目標に向けて、新しい火道流モデルの構築とそれに基づく解析という研究過程がこれまで概ね計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記載した各課題のうち、今後は主として課題CとDに取り組む。課題Cでは、課題Bで求めた定常P-Q曲線内で生じる爆発的噴火の準備・開始過程に相当する火道流の時間発展変動の解析を実施する。初期条件として火道浅部にプラグが安定に存在している低流量の安定領域の状態を設定し、深部からのマグマ供給量の増加等に誘発されて火道流が不安定化し、高流量の安定領域に遷移するまでの過程を計算する。この遷移過程における、プラグ直下の圧力やマグマ発泡度、プラグの厚さの時間変化の特徴を明らかにする。また、この時間変化の特徴が、設定するプラグ遷移条件やパラメータに依存してどのように変化するのかを系統的に明らかにする。課題Dでは、課題Cで得られた爆発的噴火の準備・開始過程における火道内の状態量変化がもたらす周囲地殻・地表の変動を、弾性変形モデルに基づいて計算する。弾性変形の計算においては、有限要素法に基づく数値モデルを用いて、山体形状や地殻構造の不均質性も考慮した解析を実施する。得られた地表変位量から、測地学的手法によって観測が可能な、任意の地表観測点における傾斜・歪変化を計算する。その計算結果を、爆発的噴火前後の傾斜・歪変化が実際に捉えられている桜島噴火の観測データと比較することで、爆発的噴火の準備・開始に伴う地表変動の特徴を捉える上で必要な観測手法・条件を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外学会の参加先と論文の投稿先を変更したため。次年度は、より効率的に数値モデル解析を遂行するための計算機整備や解析結果データ収録用ハードディスクの購入に使用する予定である。
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