研究課題/領域番号 |
23K03600
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
鈴木 子游 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 航空技術部門, 研究開発員 (40973342)
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研究分担者 |
阪口 基己 東京工業大学, 工学院, 准教授 (60452083)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | Ni基超合金 / クリープ疲労き裂進展 / クリープ変形・塑性変形 / 圧縮残留応力 / き裂閉口 / 粒界損傷 / 酸素拡散 / 結晶粒径 |
研究実績の概要 |
2023年度は,まず,単結晶材を対象に弾塑性クリープ有限要素解析を行い,クリープ負荷と疲労負荷により生じるクリープ変形と塑性変形に伴い発生する圧縮残留応力を計算し,この残留応力を考慮してき裂進展速度を計算することで,クリープ負荷後に疲労き裂が減速する現象を良好に再現できた.これにより,一定の条件下で,クリープ負荷中のクリープ変形によりき裂閉口が促進され,き裂が減速することを実証できた. また,多結晶材を用いたき裂進展試験を行った.粒径30μmの多結晶材を用い,真空中と大気中で,650℃かつ複数のK値条件でき裂進展試験を行った.その結果,大気中ではクリープ負荷中に粒界に沿ってき裂が進展するのに対し,真空中ではクリープ負荷中にき裂進展が生じなかった.このことから,クリープ負荷によりき裂先端近傍で生じる粒界損傷に与えるクリープ変形の影響は小さく,大気中の酸素の影響が支配的であることが示唆された.き裂進展試験と並行して,多結晶材の熱処理も行い,粒径30μmと150μmの2種類の供試材を用意することに成功した.来年度は,結晶粒径・温度・K値・クリープ時間条件を拡大させてき裂進展試験を行うとともに,SEM・TEM等を用いてクリープ負荷によるき裂先端近傍の粒界損傷メカニズムを精査する. 最後に,多結晶材におけるき裂進展を再現できる数値解析手法の構築に取り組んだ.「き裂の減速を引き起こすクリープ変形」,「き裂の加速を引き起こす粒界損傷」,「結晶組織に起因する不均一な力学場」を考慮するため,個々の結晶を陽に再現した多結晶有限要素モデルに,結晶粒内の変形として結晶粘塑性モデル,結晶粒界の変形・損傷として結合力モデルを導入するという基本的な方針を定め,各モデルの実装に必要なソフトウェア・サンプルプログラムを入手した.来年度はモデルの実装に取り組む.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で定めた下記3項目でいずれも適切な進捗が得られているため. A:単結晶材を用いて,クリープ負荷後に疲労き裂が減速するメカニズムの解明を行う. B:多結晶材を用いて,クリープ負荷中にき裂先端近傍で生じる粒界損傷の発達過程と,後続の疲労き裂進展速度に与える影響を精査する. C:項目Bで得た多結晶材のき裂進展速度を予測できる有限要素モデル(FEM)を構築する.
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今後の研究の推進方策 |
項目Aは,現時点までに目標を達成したため,次年度以降は行わない. 項目Bは,現時点までに,一部の結晶粒径・温度・K値・クリープ時間条件でき裂進展試験を実施済みのため,次年度以降はこれらの実験条件を拡充する.特に,SEM・TEM等を用いてクリープ負荷によるき裂先端近傍の粒界損傷の生成・発達メカニズムを精査することに注力する. 項目Cは,現時点までにモデルの基本的な構成を決定し,それに必要なソフトウェア・サンプルプログラムを入手済みのため,次年度以降はモデルの実装を行う.具体的には,オープンソースのソフトウェアを用いて多結晶の有限要素モデルを生成し,結晶粒内の構成則として結晶粘塑性モデル,結晶粒界の構成則として結合力モデルを導入する. 最後に,次年度から「項目D:任意の結晶粒径・温度・応力拡大係数・時間の条件で,クリープ負荷後の疲労き裂の加減速挙動を予測できる定量化モデルの開発」に取り組む.具体的には,項目Cで構築する有限要素モデルを対象に,機械学習によるサロゲートモデルを構築することを目指し,まずはモデル構築に必要なソフトウェア等の整備から開始する.
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:実験用品の一部が海外生産品ということもあり国内在庫が品薄となっており,当初の計画よりも少ない数量しか購入できなかったため.(無事購入できた数量分で2023年度に実施した実験は完了できたため,研究遂行に問題は生じなかった.) 使用計画:2024年度に上記実験用品を追加購入するために使用する.
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