研究課題/領域番号 |
23K03614
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研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
谷口 幸典 奈良工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (10413816)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 粉末成形 / 有限要素法解析 / Druker-Prager CAPモデル / 摩擦係数 |
研究実績の概要 |
粉末に所望の形状を付与する手法として、金型および複数の成形工具を用い、プレス機で加圧して圧粉体を得る金型成形法が主流となっているが、工具壁面-粉末間に生ずる摩擦抵抗は圧粉密度の不均一化を招き、製品強度不良の原因となるため、安定した潤滑をいかに実現するか?、が重要である。近年、有限要素法解析により圧粉~除荷~抜出しまでの一連の圧粉挙動の見える化が試みられるようになってきた。ここで、壁面摩擦挙動を単純な線形として扱うと実際と異なる解析結果となるため、その非線形特性を理論化し、解析に反映することが重要となる。そのためには実験による摩擦挙動の調査が必要となるが、圧粉成形中の工具壁面摩擦状況を模擬した試験法は一般化されていないのが現状である。非線形壁面摩擦挙動(以下、圧粉摩擦挙動)を把握するため、摩擦状況をより精確にシミュレートした摩擦試験を実施できないか?、それで得た知見を圧粉摩擦モデルとして定式化~実装して解析精度向上を図り、さらには、求められる潤滑剤特性の予測に活用できないか?、を実験と数値解析の双方から調査し、理論的解釈を図ることが本課題のねらいである。R5年度は既存設備の直交二軸加圧試験装置を活用し、荷重依存性を示す非線形摩擦現象を調査した。具体的には、成形中の密度比に対応する壁面摩擦状況を再現しつつ、その荷重依存性について密度比と独立して評価できる直接摩擦試験を遂行した。申請者が過去に提案している分離界面形成法で事前に作成した圧粉体を供試体として用いるものとした。これにより、その密度比に達した時点での表面性状を損なうことなく粒子が配列した摩擦界面で、任意の密度比において任意の面圧における摩擦挙動をシミュレートすることを実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
圧粉体内部の粒子配列状況を模擬した界面と金型壁面を模した超硬合金板との間で直接摩擦係数を計測した。原料粉末はアトマイズ鉄粉(神戸製鋼所300M)を用い、種類の異なるワックス系潤滑剤3種を0.8 wt.%添加混合したものを供試粉末A~Cとして、密度比を約0.70、0.75、0.80、および0.85とした圧粉体について、その成形に要した成形圧の10%、35%、および45%の面圧の下で摩擦力を計測した。圧粉体寸法はφ20、高さ約5 mmとした。金型壁板として表面をラップ仕上げした超硬合金を用いた。結果、面圧および密度比に依存して複雑に変化する非線形な摩擦係数を観測した。潤滑剤による差が確認され、潤滑剤によっては低密度比かつ高面圧下で摩擦することにより摩擦係数が高くなった。クーロン摩擦が成立しない状況として考察すれば、摩擦中に粒子のせん断変形が多く発生したためであると解釈できる。そのような粒子接点のせん断強さの増加は、面圧がある程度を下回ると生じないものと考えることができる。また、密度比の増加に伴い、面圧35%の場合は密度比0.85で、45%の場合は0.80で摩擦係数が約0.09と、ほぼ同じ値に低摩擦化することが明らかとなった。高密度において、それに到達するに要した成形圧に比して相対的に低いせん断強度となることから、摩擦係数には圧粉体の剛性が関与しているものと考察できる。すなわち高密度の場合、その基準面圧が界面の粒子接点数を弾性的に増加し得るに十分な面圧となって弾性的な接点面積の増加が生じることでむしろ個々の粒子接点に作用する荷重を低減し、接点におけるせん断変形を低下せしめたものと解釈された。このように、トライボロジーの観点から粉末成形における摩擦状況を考察することができた。
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今後の研究の推進方策 |
二年目は、まず、試験前後の摩擦面における潤滑剤の存在状況をSEM-EDX分析によって定量化する。これにより壁面摩擦挙動として、潤滑剤粒子がどのような挙動を示し、その結果どのような摩擦特性が得られるのか知見を得ることができる。次に、新規導入設備としてANSYS Rockyを用い、離散要素法(Distinct Element Method, DEM)を用いて壁面摩擦応力の非線形挙動と材料特性値の関連を理論化し、圧粉摩擦モデルを構築する。材料特性値を用いて供試粉末の諸特性を模擬し、圧粉摩擦試験をシミュレートした仮想実験で潤滑剤粒子の挙動を可視化分析する。解析結果を実験条件にフィードバックし、種々の材料特性値が摩擦状況に及ぼす影響を実験と解析の両面から明らかにし、知見を論文にまとめる。アウトカムズは、圧粉開始から抜出しに至るまで、時々刻々と変化する壁面摩擦状況を理論モデルに基づいて精確に模擬した圧粉成形解析の実現であり、実生産現場おけるニーズとして最適工程設計や、潤滑剤に求められる性能の事前見積もりを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
R5年度は試験機の構築のため必要となる部材の設計や外注費を見込んでいたが、別事業等により整備された所属機関の設備にて材料費のみで部材を加工・構築できた。また、旅費に関しては国内での国際会議参加など、想定よりも使用額が減った。このように当初予定よりも安価に研究を進めることに成功した。その反面、実験装置構築やデータ取得に時間を要したこともあり、数値解析環境の更新が進んでいないため、より充実した解析環境を構築するために次年度使用を判断した。これにより当初予定より本研究課題の遂行に適した数値解析ソフトウェアを選定導入できる見込みである。
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