研究課題/領域番号 |
23K03631
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研究機関 | 沼津工業高等専門学校 |
研究代表者 |
藤尾 三紀夫 沼津工業高等専門学校, 制御情報工学科, 教授 (70238541)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | バリの予測 / Boundary-Map形状モデル / バリ取り用CAM / バリ取り用ブラシ / 多軸軸制御 |
研究実績の概要 |
CAD/CAMシステムの高度化により,複雑な形状の金型や多品種少量生産部品においても高速高精度加工が実現可能となった.しかし,切削加工により必ず発生するバリの除去加工は未だに自動化されず,複雑形状製品のバリ取り加工では,熟練工の目視による認識と経験に基づいた手作業に依存しているのが現状である.熟練工に頼らないバリの認識と除去の自動化は,加工現場の生産性の向上を実現し,日本が再び国際的に優位に立つための基盤技術のひとつである.一方,近年バリ取り工程の重要性が認識され,ATCに取付け可能なバリ取りブラシの商品化により,オンマシンで自動バリ取り加工を可能とする環境が整ってきた. そこで,本研究は「NC加工シミュレーションによりバリの発生箇所を予測」し,「予測箇所に対するブラシの多軸工具経路を生成してバリを除去する」ことで,切削加工からバリ取りまでを完全自動化できる「オンマシン自動バリ取り機能を備えたインテリジェントCAMシステム」を構築・検証し,機械加工の完全自動化を実現する事を目的とする研究である. 令和5年度はまず,研究の核となる「NC加工シミュレーションによりバリの発生箇所を予測」について取り組んだ.具体的にはBoundary-Map形状モデルのソースコードを整理再編し,開発環境を構築した.そして,単純な直線加工を対象に,工具の移動方向に基づいた工具出口でのバリの発生予測アルゴリズムを考案しNC加工シミュレーションに実装した.その結果,工具が加工対象素材から抜ける工具出口でのバリの再現予測が可能となった.しかし,実加工を行った結果,工具の進入口や出口でもバリが発生したりしない箇所があり,更なる予測の高精度化が必要である事がわかった. 今後は,バリの発生予測精度の向上および予測されたバリの発生箇所へのバリ取り用工具経路の生成アルゴリズムの検討と検証が必要となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度はまず,研究の核となる「NC加工シミュレーションによりバリの発生箇所を予測」について取り組んだ.具体的には先行研究で開発したBoundary-Map形状モデルのソースコードを整理再編し現在での開発環境(VisualStudio C++2022)においてコンパイル,実行可能な環境を構築した.そして,アルミ矩形素材に対し,フラットエンドミルを用いた単純な直線加工を対象に,工具の移動方向に基づいたバリの発生予測アルゴリズムを考案しNC加工シミュレーションに実装した.対象としたバリは,工具が素材から抜ける工具出口でのバリであり,フラットエンドミルの場合は工具出口での両面で発生すると想定した.バリ予想のアルゴリズムは,NC加工シミュレーションを行う際,工具の進行方向情報を幾何情報に追加し,形状端でかつ工具が抜ける方向に移動している箇所をバリとすることで,工具出口でのバリの予測を行った.そして,簡単な直線工具でのNC加工シミュレーションの結果より,工具が加工対象素材から抜ける際のバリの再現予測が可能であることが明らかになった. 次に,バリの発生箇所の予測アルゴリズムの検証を行うため,実際に加工実験を行いバリの生成箇所の評価を行った.その結果,工具出口にバリが生じ,提案する手法でバリの発生が予測可能であることが明らかになった.一方で,工具の進入箇所でのバリの発生,加工後の素材上面においてバリ発生が生じていることがわかった.また,実加工の結果から工具出口において,工具が抜けた両方の面にバリが発生すると予測したが,実際には片方の面にしかバリが生じていないことが明らかになった. これらの結果から,工具侵入時や素材正面のおよび工具が抜ける場所での予測の高精度化が必要であることがわかった.また,予測されたバリの発生箇所へのバリ取り用工具経路の生成アルゴリズムの検討が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度において,矩形材料に直線加工を行うという簡単な条件でのバリの発生予測アルゴリズムを開発し,NC加工シミュレーションに組み込んだ結果,バリの予測が可能であることが明らかになった.また加工実験により,予測された箇所においてバリが生じていることがわかった.一方で加工実験の結果から,簡単な条件下においても,加工素材や工具入り口においてもバリが発生することが明らかになった.また,工具出口においてもバリが生じない面があることがわかった. このため「NC加工シミュレーションによりバリの発生箇所を予測」においては,工具進入口,工具加工後の上面,工具出口でのバリを正確に予測するためのアルゴリズム開発が次のステップとなる.バリの発生状況をみると,工具の回転方向が関与していると判断できるため,工具の回転方向を考慮したアルゴリズムの開発を行う.そして,加工実験を行い,まずは簡単な条件でのバリの発生予測精度の向上を目指す. また,「予測箇所に対するブラシの多軸工具経路を生成してバリを除去する」については,今年度からは取り組む.具体的には,NC加工シミュレーションにおいて予測したバリの箇所の抽出と,その箇所にバリ取り用のブラシを移動させバリ取りを自動的に行う工具経路生成アルゴリズムの開発に着手する.当初は簡単な条件でのバリ取り工具経路生成を目標とする.対象としては,矩形材料への直線加工で生じる素材上面,工具の入り口,出口でのバリ取りを対象とする.そして加工実験によりその有用性の検証を行う. まとめると,今年度は簡単な形状と加工条件を対象に「NC加工シミュレーションによりバリの発生箇所を予測」し,「予測箇所に対するブラシの多軸工具経路を生成してバリを除去する」アルゴリズムを開発し,システム全体としての基本的な機能の検証と評価を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
先行研究に用いていたBoundary-Map形状モデルのコードが10年以上前のコードで古く,新しいVisualStudio2022でコンパイル,実行させる開発環境の整備に想定以上の時間を要し全体の作業が遅れた.このため,開発専用のワークステーションや実験用PC端末の購入に至らなかった.また,加工実験に用いる5軸加工機の移設が8~10月に行われたため,加工実験を進めることができなかった.このため,バリ観察用のマイクロスコープの購入や加工実験のための人件費を使用しなかった.令和6年度では開発環境も整備され,また5軸工作機械も移設が完了しているので,早急にコード開発と加工実験を進めていく予定である.
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