研究課題/領域番号 |
23K03703
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
神谷 宏治 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究センター, 副センター長 (70549154)
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研究分担者 |
松本 宏一 金沢大学, 数物科学系, 教授 (10219496)
沼澤 健則 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究センター, NIMS特別研究員 (30354319)
夏目 恭平 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究センター, 主幹研究員 (90632282)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 磁気冷凍 / スターリング / 熱音響 / 断熱消磁冷凍機 / ADR / 能動的蓄冷式磁気冷凍 / AMR |
研究実績の概要 |
本研究は能動的蓄冷式磁気冷凍(Active Magnetic Regenerative Refrigeration: AMR)とよばれる磁気冷凍法を用いた量子コンピュータの冷却実現に向けた基礎研究である。 超伝導型量子コンピュータは100 mK以下の超低温環境を必要とし、現在主にヘリウム3とヘリウム4の混合冷媒を利用する希釈冷凍機が用いられる。しかし希釈冷凍機は大量のヘリウム3を使用することから、今後の量子コンピュータの高集積化に向けてヘリウム3の使用量も大きく増加することが懸念されている。希釈冷凍機と同程度の温度まで冷却する能力をもつ断熱消磁冷凍機(Adiabatic Demagnetization Refrigerator: ADR)は固体冷凍機であり、冷熱の発生にヘリウムを使用しないという利点をもつ。ただしADRは、キーデバイスの数が多く、機構が複雑という課題が知られている。 本研究の目的の一つは、極低温域においてADRより単純な、能動的蓄冷式磁気冷凍(Active Magnetic Regenerative Refrigeration: AMR)を製作し、概念実証することである。またAMRの動作周波数を上げて熱音響駆動型の低温ポンプを実証すること、最終的に、この熱音響による自励振動型低温ポンプで、高速のAMRを実証することである。 令和5年度は、磁気作業物質フッ化リチウムガドリニウム(GLF)を用いて1K以下に冷却することに成功するとともに、AMRに必要なGLFの微粒子の製造にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、超低温で量子コンピュータが要求する高い冷凍能力を発生するため、これまでにないサイズの磁気作業物質(フッ化リチウムガドリニウム:GLF)の製作を実施した。GLFの大型化に必要な専用のプレス治具を製作することで直径60 mm厚さ5mmのGLFウェハーの製作に成功した。 磁気冷凍に必要な磁場は、線径0.2 mmのNbTi線材を用いて4Tの超伝導磁石を製作した。GLFを封入する専用の容器も製作し、容器はGLFの熱伝達を促進するためにヘリウム3を充填した。充填圧は、GLFが動作する約2 Kで、ヘリウムガスを容器とGLF間の距離以下の平均自由行程にするため室温で1気圧の充填とした。超伝導磁石とGLF容器を一体化したステージを、GM冷凍機を搭載したクライオスタットに搭載して、断熱消磁試験を行った結果、1 Kを大きく下回る低温の発生に成功した さらに令和5年度は、超低温でADRではなく能動的蓄冷式磁気冷凍(Active Magnetic Regenerative Refrigeration: AMR)を実現するため、GLFをウェハー形状ではなく、微小な球状粒子に成型することを試みた。その結果平均粒径265μmのGLF球状粒子を500 g製造することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は1Hzでの超低温におけるAMRサイクルの原理実証を行う。実証に引き続き、熱 交換ガス(ヘリウム4)の圧力や振動流の周波数、磁場変動との位相を制御することで、最適運転条件を確定していく。その後、動作周波数を段階的に向上し冷凍サイクルの成立性の確認と、冷凍能力および効率の周波数依存性を測定で見出す。可能であれば通常室温に設置する熱交換駆動用のポンプを極低温に設置することでより高効率な超低温AMRシステムの構築を目指す。 令和7年度はAMRの運転周波数のさらなる高周波領域での動作実証を試みる。またGM冷凍機の1段と2段を接続することで自励振動を発生させ、低温ポンプとしての成立性を確認する。最終的にこれらデバイスを用いて、スターリング型AMRの実証を試みる。
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