研究課題/領域番号 |
23K03806
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研究機関 | 津山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
桶 真一郎 津山工業高等専門学校, 総合理工学科, 教授 (20362329)
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研究分担者 |
大竹 秀明 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (10727655)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 過積載太陽光発電システム / I-V特性 / 最大電力点追従制御 / クリッピング / 動作点 / 出力低下 / ローカルMPP |
研究実績の概要 |
発電電力量や設備利用率の向上を目的として,パワーコンディショナ(PCS)の定格出力より大きい太陽電池アレイを搭載する過積載と呼ばれる設置形態の太陽光発電システム(PVS)がよく見られる。過積載PVSの最大出力はPCSの定格によって決まるため,日射強度が大きい場合には発電電力が頭打ちとなるクリッピングと呼ばれる現象が発生する。クリッピングが発生しているとき,日射強度の変動はPVSの出力に影響を及ぼさない。すなわち,一部のセルやモジュールに不具合が生じてもPVSの発電電力が低下しない。このことは,PVSの出力低下に注目した故障発見手法の有効性に影響を及ぼす可能性がある。 本研究では,太陽の動きに伴って移動する部分影の位置,運転中の過積載PVSで得られる基礎データ,過去の実績値,予測値,および気象データを用いて故障を発見しその位置を特定する手法を開発する。研究期間の初年度である2023年度には,過積載PVSにおいてクリッピングが発生する際のPCSの出力制御や,故障による出力低下を模擬した部分影が生じた際のI-V特性およびPCSの動作点の変化の様子を観察した。その結果,過積載PVSでは,日射条件が非常に良好な場合にはPCSはストリングの動作点を高電圧側に移動して電流を低下させることで発電電力をクリッピングすることがわかった。また,故障を模擬した部分影を生じさせた場合,I-Vカーブに段差があるため,実際の最大電力点(MPP)とは異なるローカルMPPで運転する場合があった。そのときに他の健全なストリングでクリッピングが発生すると,動作点がローカルMPPよりも発電電力が大きくなる位置に移動する現象が見られた。これらの知見は,今後,実施する過積載PVSの故障検出手法の開発に有用なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の予定は,故障発見のための機械学習プログラムの構築のための基礎データを収集することであった。2023年度の実施内容は,津山高専に設置した過積載太陽光発電システム(過積載PVS)における運転中の発電特性データならびに電流-電圧特性データの計測である。津山高専には,太陽電池アレイの定格出力が6.24 kWで,パワーコンディショナーの定格出力が5.5 kWの過積載PVSが設置されている。そのPVSにおいて,運転中の発電特性データ(ストリングごとの電圧,電流,電力)とストリングごとおよび各モジュールの電流-電圧特性データを1年間にわたって連続計測した。また,故障による出力低下を模擬するため,過積載PVSを構成する太陽電池モジュールの一部に部分影を生じさせて上記の発電特性データならびに電流-電圧特性データを計測した。太陽電池モジュール上に部分影が生じることにより,電流-電圧特性曲線には段差が生じ,その結果,最大電力点追従制御をしているパワーコンディショナーの動作点が最大電力点とは異なることがわかった。このように故障を模擬した場合の発電特性データも,数日間にわたって計測した。以上のように,当初の計画通り故障発見のための機械学習プログラムの構築のための基礎データを収集することができたため,本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,対象とする過積載太陽光発電システム(過積載PVS)の過去の実績値,気象予測に基づく予測値,およびリアルタイムで計測する発電データを機械学習によって構築する分類器に学習させ,出力変動や予測値と実際の計測値とのかい離に基づき故障を発見する。機械学習を用いることで,未知の特徴点に基づく故障発見が可能であり,単なる出力低下と火災に至る危険な故障とを判別することも可能になると見込んでいる。 2024年度には,過積載PVSの健全時ならびに故障時の発電特性データの収集を継続するとともに,過積載PVSの故障を早期に発見する手法の開発に着手する。健全時の発電特性データは,2023年度から継続して連続計測を実施中である。故障時の発電特性データは,2023年度には太陽電池アレイを構成する1枚の太陽電池モジュールに部分影を生じさせた場合のみについて計測したが,2024年度には,複数の太陽電池モジュールにまたがる部分影が生じた場合(周辺の樹木の成長を模擬)や,離れた位置に複数の部分影が生じた場合(複数の故障の同時発生を模擬),バイパスダイオードの開放や短絡などを想定した模擬故障発電特性データを収集する。その実験には,実際に短絡故障が発生し火災に発展したPVSから採集した故障バイパスダイオードを用いる予定である。 これらの観測ならびに実験により,故障検出に用いる機械学習プログラムの学習に必要な量の発電特性データを得られると見込んでいる。本研究では,ロジスティック回帰あるいはランダムフォレストを用いることで,多くの健全時発電データの中に混じった少数の故障時発電データを検知する異常検出プログラムを開発する。2024年中には,運転中に得られる発電データを用いて,故障の有無を判別できる機能を実現する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
過積載太陽光発電システム(過積載PVS)の発電電力計測システムの構築に必要な計測器やケーブル,端子類などを購入する予定であったが,既設の過積載PVSのデータ収集システムの機能が非常に充実しており,一部の計測器を新たに設置したほかはソフトウェアの変更で対応ができたため,その分の金額を節約することができた。その金額の一部は,実験のための太陽電池モジュールの購入に充てることで効率的に研究を進めることができた。次年度使用額は,太陽電池モジュールの故障を模擬した実験を実施する際の消耗品(太陽電池モジュール,バイパスダイオード,ケーブル,コネクタ等)に使用する予定である。当初計画よりも実験で模擬する故障状態のバリエーションを増やすことができる見込みで,より幅広い故障状態を対象とした故障検出手法の開発につながると予想している。
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