研究課題/領域番号 |
23K03825
|
研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
飯岡 大輔 中部大学, 工学部, 教授 (30377808)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | オフグリッド / 再生可能エネルギー / 保護制御 / 対称座標法 / HIL / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究ではオフグリッドの保護制御理論の構築に取り組んでいる。従来の電力工学,保護リレーシステム技術およびパワーエレクトロニクス技術を融合することで理論を構築し,さらに機械学習技術を適用することで,オフグリッド実現の基盤構築を目指している。R5年度はオフグリッドの短絡・地絡電流計算理論の構築に取り組んだ。対称座標法に基づいて計算する理論を体系的に構築し,汎用性の高い計算プログラムを開発した。オフグリッドの構成は配電線構成などによりさまざまであるため,あらゆる構成のオフグリッドに対して解析できるように配電線の分岐,任意の事故点,事故点以外の箇所の零相電圧・零相電流を考慮できる計算プログラムを開発した。開発プログラムの妥当性を評価するために,実在する配電線の情報に基づいて作成されたJST-CREST126配電線モデルを用いて評価したところ,高い精度で計算できることを明らかにした。また,オフグリッドでは地絡電流の検出が困難になることを想定しているが,これを解決する接地補償用コンデンサの容量を算出するアルゴリズムを提案し,開発した計算プログラムで十分な効果を明らかにした。 また,オフグリッドにおける短絡事故挙動を明らかにするためにHardware in the loop(HIL)で実験的に検討した。オフグリッド内電源となるインバータの制御信号を生成する実機をHILに接続し,HIL内に構築したオフグリッドのインバータを駆動し,短絡試験をリアルタイムシミュレーションで実施した。瞬間的な過電流は短絡抵抗を小さくするほど大きくなった。短絡期間中の電流は短絡前と同じ大きさに制御されていた。インバータの制御方法はさまざまであるため,本実験で得られた結果は一例であるが,短絡期間中の電流が通常時と同レベルである点については,従来の保護制御をそのまま適用しにくい条件であることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電力工学,保護リレーシステム技術,パワーエレクトロニクス技術,機械学習技術を融合してオフグリッドの保護制御理論を構築するために,本研究ではR5年度に①オフグリッドの短絡・地絡電流計算理論を構築する計画としていたが,おおむね計画通りに目標を達成することができた。 地絡電流について,計画ではオフグリッド内の地絡電流検出を可能にするコンデンサについて検討することを予定していたが,電力工学で広く知られている対称座標法をオフグリッドに適用する方法を導出し,汎用性の高い計算プログラムを開発することに成功した。また,保護リレーシステム技術の一つである地絡方向継電器でオフグリッド内の地絡電流を検出するためのコンデンサ容量を2次方程式から導出する方法に気づき,導出したコンデンサ容量をオフグリッドに適用したモデルについて開発した計算プログラムで解析したところ,地絡電流を検出できることを示す十分なデータを得ることができた。 また,短絡電流について,計画通りにHardware in the loop(HIL)で実験的に検討するモデルを構築し,リアルタイムシミュレーションで短絡試験を実施することで挙動を明らかにした。ただし,電力系統に連系されるインバータ電源の制御方法はさまざまであることを考えると,実験結果は一例であることに気をつける必要がある。このことに留意して,R7年度に実施予定の機械学習によるオフグリッド内事故検出手法の開発に取り組む予定である。 R6年度に実施予定である②オフグリッドの短絡電流・地絡電流特性の把握にも着手しており,開発した計算プログラムと構築したHILによる実験モデルを使用して,オフグリッドの構成要素と事故時の電気的特性の因果関係を明らかにすることについて検討し始めている。
|
今後の研究の推進方策 |
オフグリッドの保護制御理論を構築するために,R6年度には②オフグリッドの短絡電流・地絡電流特性の把握に取り組む。さまざまな構成のオフグリッドを想定し,R5年度に構築した計算理論を適用して事故時における短絡電流・地絡電流を計算する。また,R5年度に用いたHILの構成を変えて実験することで,計算結果の妥当性を検証する。計算結果から,オフグリッドの構成要素と事故時における電気的特性の因果関係を明らかにし,事故の発生有無を検出するために必要な要素を抽出する。事故を確実に検出することが求められるが,電力供給の可用性を考慮すると誤検出をしないシステムとする必要がある。具体的には,需要家の消費電力が大きいときの健全時の電流を事故と判定せずに,短絡や地絡事故時の電流を事故と判定する必要があるので,このような判定ができるように,計算結果を分析する必要がある。なお,R5年度とR6年度に得られた研究成果をそれぞれ論文として公表できるように研究を進める予定である。 以上の研究を踏まえて,R7年度には③機械学習によるオフグリッドの事故検出手法の開発に取り組む予定である。②の検討から事故発生時の電気的特性が判明すると考えられるので,これを教師データとして機械学習で検出する理論を構築する。現時点の計画では,入力データとしてオフグリッド内における電圧・電流の時系列データを使用し,事故発生から0.1~0.5秒程度の速さで事故検出できるシステムの構築を目指す。この検出速度は従来の電力系統における保護制御と同等のものを実現することを目指した目標値である。なお,機械学習の技術の進歩は目覚ましいので,機械学習に詳しい専門家へのヒアリングを通して,適切な方式の適用を模索したい。ヒアリングについてはR6年度中に着手する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
文献調査用に予定していた海外文献の入手が困難となってしまったため,次年度使用が生じてしまった。購入できなかった海外文献についてはR6年度に代替品の購入を行う予定である。
|