研究実績の概要 |
初めに,マルチパルスEP装置を用いて,魚類受精卵(メダカ,ゼブラフィッシュ)に対し電気パルスによるダメージの調査を行った。パルス幅と電圧を変化した電気パルスを溶液内の受精卵に印可し生存率と死亡率を調べた。実験結果より,メダカ受精卵は100 ns,2.0 kV,インターバル100 ms,3 ms,20 V,ゼブラフィッシュ受精卵は100 ns,800 V,インターバル100 ms,3 ms,20 Vを導入実験で用いるそれぞれの基本パルス条件とした。 導入実験では,分子量5k,60k,150k,500kDaの蛍光標識デキストランを溶かしたものをパルス印可時の周囲溶液として使用した。周囲溶液で満たした自作のキュベットに受精卵1個配置しパルス印可した。その後,蛍光顕微鏡を用いて,通常の蛍光視野画像および断面画像(顕微鏡付属のセクショニング機能)を観察した。 ゼブラフィッシュ受精卵に対する実験では,受精卵内部の断面画像および卵膜を破いて採取した卵内液(囲卵腔液)の蛍光画像から,パルス印可が無い場合5kや60kDaのデキストランは卵内に導入され,150kや500kDaは導入されないこと,一方パルス印可をすることで150kや500kDaも卵内に導入されることが分かった。 メダカ受精卵に対する実験では,断面画像では卵膜に付着したデキストランの発光が強く囲卵腔液からの発光との区別がつかず,さらに卵膜が強固で破くことができなかったため囲卵腔液だけの発光も未確認であり今後の検討が必要である。 実験と並行して,新型の高速大容量の半導体素子を用いたパルス発生装置を試作した。ナノ秒パルス発生に使用してきた従来のパルス形成線路型パルス発生器における問題の一つであるパルス幅を容易に変えられることに加え,負荷とのミスマッチに起因する出力電圧の変動がなくなることから,実験の効率の向上が期待できる。
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