研究課題/領域番号 |
23K03879
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
湯浅 友典 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (60241410)
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研究分担者 |
相津 佳永 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 特任教授 (20212350)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 拡散反射光スペクトル / 微分スペクトルデータベース / ヘモグロビン色素 / 血液酸素飽和度 |
研究実績の概要 |
本研究では,光のスペクトル分析を活用して,誰もがどこでも高品質な酸素飽和度計測を行うクラウド型検知システムを開発することを目的としている.最終的には,皮膚の詳細モデルで計算したスペクトル群をクラウド型データベースで配備することを計画している.そこでまず手元のデータにマッチする皮膚の血液濃度に伴う酸素飽和度をオンラインで検索・取得し,感染症等による重篤状態を検出通知するシステムを実現すべく,酸素化変動による機微なスペクトル変化を確実に捉えるため,新たに微分型スペクトルデータベースの構築を行った. 皮膚の拡散反射光スペクトルの形状はメラニン色素,ヘモグロビン色素,組織・細胞による吸収と散乱の効果で,可視波長帯で多様に変化することがこれまでの研究から明らかになっている.この中でもヘモグロビンの吸収はさらに血中酸素飽和度に依存して局所微細な変化を呈する.そこで可視全域スペクトル形状からヘモグロビン(血液)濃度を特定する一方,局所帯域の機微な曲線変化から酸素飽和度を高感度に捉えるため,新たに波長を変数とした反射率差分に基づく微分スペクトルの有用性を検証し,最適な波長ステップを特定し,微分スペクトルデータベースの構築を行った.初期値を10nm毎としたが,精度不足であったため1nm毎とした.その後,大量の皮膚スペクトルとその微分スペクトルを高速検索に最適な並列構造化したデータベースとして構築中である. 研究成果については,第71回応用物理学会春季学術講演会,The 10th Biomedical Imaging and Sensing Conference,The 14th Japan-Finland Joint Symposium on Optics in Engineeringにて発表を行い,また,Optical Reviewに論文を投稿した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の分光スペクトルのみを用いた推定法に,微分スペクトルを用いたデュアル階層で交互にマッチングする手法を加えることで,最適な結果を選定する階層間クロスマイニング法を現在構築中で,血液濃度と酸素飽和度の分別測定精度を大幅に向上させることを目指している.また,高速かつ低コストなスマート検索を実現するため,機械学習によるAI型ターゲットレンジ探索法を導入し,特定した最適レンジの分光反射率情報からエッジの効いた酸素飽和度変化の抽出を目指している. 階層間クロスマイニング法の開発においては,皮膚スペクトルは血液濃度と酸素飽和度の異なる組み合わせで複数の類似スペクトルが存在することが問題となっている.そこでスペクトルの局所凹凸を描出する微分スペクトルと元スペクトルとの間で,交互に変数値をずらしながらイタレーションを行い,二乗平均誤差(RMSE)が最小となるスペクトルから紐づけされた酸素飽和度の最適解を導く階層間クロスマイニング法を新たに開発中である. AI型ターゲットレンジ探索法の開発においては,本研究で扱うスペクトル帯域は可視域であり,波長帯を400~700 nmとしている.9層皮膚モデルは各層毎に吸収係数,散乱係数,散乱方向余弦,屈折率,層厚みの5変数を設定し,反射率スペクトルをモンテカルロ法で計算している.この際,第4層以下の真皮層・皮下組織の吸収係数を酸素飽和度に基づき変化させれば,特定のスペクトルレンジで組織酸素飽和度を高感度に反映することができそうであることを確認している.そこで,データベース内の大量スペクトルを元に機械学習で解析し,ターゲットとなる最適レンジを丁寧に探索特定するAI型ターゲットレンジ探索法のアルゴリズムを新たに開発中である.
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今後の研究の推進方策 |
最終的な研究実績を社会普及させるためには,スマートフォン画像からからターゲットレンジスペクトルへの変換マトリックスを部分型ウィナー推定により整備などのアプリケーションなどについても考慮する必要がある. 部分型ウィナー推定アルゴリズムの開発については,研究機関,基幹病院以外では反射率スペクトルの計測は専用機器が必要なため難しい.そこでスマートフォンのRGB画像から,ターゲットレンジのスペクトルのみを高精度に再構成する部分型ウィナー推定アルゴリズムを開発する.RGBデータから可視域をウィナー推定する既存手法では,短波長側と長波長側の精度が悪く振動が避けられない.そこで狭帯域化したターゲットレンジのみのスペクトル再構成に制限することで誤差抑制を達成し,探索にかなう高精度のスペクトルを導く予定であり,さらにAIを用いた推定手法についても現在検討中である. また,私たちは,生体皮膚に極めて類似するスペクトルを生成可能な寒天型人工皮膚ファントムの作成技術を有している.異なる血液濃度と酸素飽和度を設定した複数のファントムを作成し,測定したスペクトルとその微分データをデータベースにかけて,マッチングの速度,クロスマイニングのイタレーション回数,酸素飽和度出力値の精度,酸素飽和度変動範囲のカバー率を今後評価していく予定である. その結果に基づきデータベースの変数変化範囲,変化ステップ,クロスマイニングの判定閾値を再検討し,データベースの再構築とアルゴリズムの修正改良を進める予定である.また同様にスマートフォンで撮影したファントムRGB画像からのスペクトルマイニング実験を行い,皮膚の血液濃度と酸素飽和度のレベル値を検証する.性能が不十分な場合,ターゲットレンジの調整と,シミュレーションに用いる変数の再検討を行う.結果の精度と安定性を確保したのち,全システムを統合して動作確認を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画ではドイツで開催される国際研究発表会に出席し,研究成果を発表する予定だったが,学内業務の都合でスケジュールが合わず行くことが出来なかった.その代わり,国内で開催される国際会議に2回参加し発表を行った.その差額分が来年度への繰越金となった.来年度は隔年で日本とフィンランドで開催されている国際学会がフィンランドで開催されるのでそれに参加する予定である.昨今の円安の影響で当初の計画以上に支出の増加が見込まれているので,その不足分に充てたいと考えている.
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