研究課題/領域番号 |
23K03935
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
柴田 陽生 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (70771880)
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研究分担者 |
木村 宗弘 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (20242456)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 有機半導体 / ネマチック液晶 / 分子配向 / 有機結晶 |
研究実績の概要 |
ウェアラブルIoTデバイス端末のように、人間が携帯するデバイスの自立電源技術として、薄くて軽く曲げられ、更には価格低下の余地がある溶液塗布型の有機薄膜太陽電池(OPV)の利用が期待されている。本研究は、OPVの高信頼化を目論み、配向制御の自由度が高いネマチック液晶を溶媒として用い、液晶の配向場で高秩序なpnヘテロ接合形成し、その光電変換機能の実証を目指すものである。 初年度は、液晶の配向場に沿って結晶方位が揃う効果を過去に見出しているp型高移動度半導体材料(ジアルキル側鎖型ベンゾチエノベンゾチオフェン:C8BTBT)と、大気安定なn型材料として知られるジアルキル側鎖型ペリレン(PTCDI-C8)の組み合わせから成るヘテロ接合の形成条件およびその分子配向構造を明確化することを目的とした。 最初に、ネマチック液晶と有機半導体の混合溶液が、結晶方位に及ぼす影響を確認するため、ラビング処理を施したポリイミド配向膜で混合溶液を一定の厚さで挟み込んだセル構造を作製した。加熱した溶液セルを冷却し、過飽和にすることにより結晶析出を促進した。一般に結晶成長が開始するとされる基板界面に着目し、液晶に対する界面アンカリングの評価を配向膜を変化させて実施した。検討した配向膜2種の間では、極角アンカリングエネルギーが1桁異なる結果が得られたにも関わらず、C8BTBT結晶の分子配向は、同等とみられる結果がX線回折測定で得られている。また、液晶に対して溶解性が乏しい材料または融点が高い半導体材料については、液晶相-等方相間の相転移温度が高い液晶の選定が必要となることが分かった。また、p型材料とn型材料の混合液晶溶液をスピンコート法で塗布した結果から、空気界面における液晶の配向乱れの影響は見られず、分子オーダーで混合した混晶構造を取らないことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度の当初目標は、液晶配向場の制御によって有機半導体結晶における分子配向を太陽電池応用に適した配向に変える技術を実現するための、十分な知見を蓄積することとしていた。しかし、n型有機半導体材料の液晶に対する溶解性が乏しく、攪拌条件および液晶溶媒種の選定に難航したために、目標を十分に達成しているとは言えない。液晶と親和性の高いn型材料の選定は今後の有機太陽電池の試作のための核をなす部分でもあるために、注力せざるを得なかった。当初の目標よりやや遅れ気味ではあるものの、材料および液晶溶媒の選定指針について得ることはできたと考えている。また、今年度の実施においては、有機半導体の配向構造が単に界面アンカリングの影響ではなく、液晶材料種によって決まる可能性が浮上してきたことから、有用な知見が得られ始めている。以上のことから、当初の計画に対してやや遅れている状況にあると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究実施目標は、液晶溶媒中で分子配向制御した有機半導体結晶を用い、有機太陽電池の素子化を達成することにある。特に、これまで用いてきたポリイミド系の配向膜は電荷の流れを妨げる理由により適用できないことから、導電性高分子あるいは高分子系有機半導体薄膜を用いた液晶配向制御法を確立し、ヘテロ接合構造による素子化を目指すことを考えている。基板界面のアンカリング強度が、有機半導体分子の配向構造を変える主要因ではないことは、分担者との共同によって令和5年度中に明らかにしたため、液晶の分子配向さえ担保された場を形成すれば、問題なく令和5年度に検討した技術を有機太陽電池に転用可能である。また、素子化と同時並行で、液晶材料種および有機半導体の分子構造を系統的に変化させながら、有機半導体の分子配向を決める因子の解明も試みる。
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