鉄(Fe)とアルミニウム(Al)もしくはボロン(B)との合金は、高い透磁率と実用レベルの飽和磁束密度を持つため、潜在的に優れた電磁エネルギー変換能力を有する。しかし、純Feと異なり、磁歪が大きいことが、磁気コアへ適用する際の障害になっている。AlとBはいずれも13族元素であり、類似の最外殻電子配置を持つ。そのため、これらの元素がFeの電子状態に影響を及ぼし、磁歪を増大させていることが考えられる。軽元素である窒素(N)は、AlやBと親和性が高いため、Fe-AlやFe-B合金に均質固溶させることができれば、原子レベルでNがAlやBと優先的に結合し、磁歪を低減させる効果があることが期待できる。そこで、本研究では、熱的非平衡プロセスである反応性スパッタリング法を活用して、Fe-AlおよびFe-B合金にNを添加した薄膜試料を作製した。研究初年度である2023年度は、これらの合金薄膜試料の結合状態を調べ、その状態が磁歪特性へ及ぼす効果を調べた。Fe-Al合金は結晶材料であるため、MgO(001)基板上に400 ℃でヘテロエピタキシャル成長させることによりFe-Al-N(001)単結晶薄膜を形成した。一方、Fe-B合金はアモルファス材料であるため、熱酸化Si基板上に室温で成長させることによりFe-B-Nアモルファス薄膜を形成した。これらの結晶構造評価には、反射高速電子回折およびX線回折を用いた。そして、X線光電子分光法による実験結果は、Nを固溶させたFe-AlおよびFe-B合金において、NはAlもしくはBと優先的に結合しやすいことを示すものであった。また、Al-NもしくはB-N結合の形成促進に伴い、磁歪が低減される傾向も認められた。
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