研究課題/領域番号 |
23K03953
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆英 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (10345390)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | スイッチング電源 / DC-DCコンバータ / 昇降圧コンバータ / 複数入力 / 効率改善 |
研究実績の概要 |
令和5年度は,複数の発電素子を入力可能なDC-DCコンバータの基本構成を検討した.研究の第1段階として,発電素子の個数を2個に限定し,二次電池を使用しない条件下で所望の出力電圧および電力を出力する際に,より小さな損失となる構成および制御方法の探索を実施した. 2個の発電素子には太陽電池及び熱電発電を想定し,数十ミリW程度の負荷に電力を供給する応用を前提とする.発電素子にはそれぞれ専用の昇降圧型DC-DCコンバータを配置し,それらの出力を並列に接続する構成(並列出力構成)と直列に接続する構成(直列出力構成)の損失を比較した.各コンバータにおける消費電力はスイッチ,インダクタおよびキャパシタの抵抗成分において生ずるとし状態平均化法を用いて理論式を作成した.2個のDC-DCコンバータを用いて出力電圧を所望の出力電圧に制御する方法として一方のDC-DCコンバータ(コンバータ1と呼ぶ)に電圧制御を行い,もう一方のDC-DCコンバータ(コンバータ2と呼ぶ)は固定デューティ比で動作する方法を採用した.並列出力構成ではコンバータ2は定電流源として動作し,コンバータ1は必要な電圧とするために不足する電荷を供給する.直列出力構成では,コンバータ2とコンバータ1はそれぞれ電圧源として動作し,必要な電圧になるようにコンバータ1が出力電圧を調整する. 各回路ブロックをモデル化し,仕様として与えられた入出力電圧と負荷電流において損失が最小となるコンバータのデュ―ティ比の定め方を明らかとした.与えられた仕様毎にいずれの構成が低損失となるかを示した.基本構成により入力可能な電圧範囲やコンバータ2制御範囲が異なることを併せて明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は,当初計画のとおり複数の発電素子を入力可能なDC-DCコンバータの基本構成について検討を行い,より小損失となる構成および制御方法について明らかにした. 複数の発電素子から所望の電力を得る方法として,発電素子1個に対して1個のDC-DCコンバータを用いる方法を検討した.複数の発電素子を用いて1個の負荷を駆動することを可能とすることで,ある発電素子の出力が低下した場合にも負荷に電力を供給することができる.シミュレーションによる確認ではあるが,複数の発電素子を用いて,所望の電圧を負荷に供給する方法を提案している.これは,当初計画に沿った成果である.基本回路構成として並列出力構成と直列出力構成の2構成を取り上げ,それぞれの利点と欠点を明らかにすることができた.それぞれの構成においてDC-DCコンバータ内部で生ずる損失が最小となる制御値の理論解析を行っている.得られた結果はシミュレーション結果と概ね一致することから,解析が妥当であることが確認された.複数のDC-DCコンバータを用いて一つの出力電圧を得る場合,複数のDC-DCコンバータの協調した制御が必要となるが,今年度は一方のコンバータを一定のデューティ比で動作させることにより,一方のDC-DCコンバータの制御回路を不要としている.入力電圧が変化した場合の動作も確認している.今年度に検討を行った2構成だけでは動作開始後の入力電圧の動的な変化,特に複数の入力電圧の大小関係が逆転した場合や,入力電圧が入力電圧範囲を逸脱した場合の最適制御については実現することが難しい.これらの現象に対応した損失を最小化は,回路の基本構成を動的に変更することで可能となる.新たにスイッチを挿入することなく既存のスイッチと並列に挿入することでスイッチの損失を増やさずに回路構成の動的な変更を実施するための基礎的な検討も実施した.今後も継続して検討を行う.
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今後の研究の推進方策 |
今後の検討方針として大きく以下の2項目を想定している. 第1に,令和5年度に明らかにした損失を最低化するための構成および動作条件に入力電圧および負荷条件が変動した際に自動追従する方法の提案を行う.これまでは回路の基本構成を変更することなくそれぞれの入力に対して損失が最小となる動作条件を明らかにした.今後は,入力電圧の変動に応じて自動的に損失がほぼ最小となる回路構成およびコンバータ2のデューティ比で動作する方法を提案する.特に,複数の入力電圧の大小関係が逆転した場合や,負荷条件が大きく変化した場合には,回路構成も動的に変更する必要があるがその方法の確立が必要となる. 第2に,二次電池の併用を検討する.これまではDC-DCコンバータ部の損失を最小とすることで発電素子に許容される出力電力の下限の拡大を行った.続く段階では二次電池を用いることにより,余剰の電力を二次電池に蓄える方法を検討する.この場合,負荷に電力を供給するDC-DCコンバータにより最低損失で負荷に電力を供給しつつ,二次電池を充電するDC-DCコンバータは発電素子の出力電力が最大となるように制御する.同時に二次電池の特性を考慮し安全性も確保する.まず二次電池には充電を行うのみとし,また,二次電池の特性から二次電池の安全性を考慮したDC-DCコンバータの最大出力を定める.次に,負荷に電力を供給しつつ,許容される範囲内の最大電力を二次電池に供給できる制御を検討する.その際,上記の第1の課題で提案した,損失を最小とする自動追従手法が活用できる.次に,発電素子からの電力が不足する場合を想定し,二次電池に蓄えた電力を適切に使用する方法を検討する.発電素子からの出力電力を最大化し,二次電池の消費を最小とする回路構成および移行が容易な制御方法を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度は令和6年度以降に実施する回路試作に向けて設計および理論的な解析に注力した.回路シミュレータおよび使用する計算機設備などは研究代表者がすでに所有している設備を使用することができたため支出を抑えることが可能となった.令和6年度分は提案回路の試作を予定している.集積回路の試作には使用する半導体製造会社,契約条件により多額な費用が発生する.令和5年度請求助成金は令和6年度請求助成金と合わせて集積回路(0.18μmCMOSテクノロジー使用予定)の試作に用いる予定である.
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