研究課題/領域番号 |
23K03975
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
野村 一郎 上智大学, 理工学部, 教授 (00266074)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | Ⅱ-Ⅵ族半導体 / InP基板 / レーザ / しきい値電流密度 / 活性層 / 量子井戸 / エッチピット密度 / フォトルミネッセンス |
研究実績の概要 |
InP基板上Ⅱ-Ⅵ族半導体レーザ構造の最適化に向けてレーザ特性の理論解析を行った。構造は活性層にZnCdSe、バリア層(光閉じ込め層)にMgZnCdSe、n側クラッド層にMgZnCdSe、p側クラッド層にMgZnSeTeを用いた構造とした。発振波長を590nmとしてしきい値電流密度の活性層厚依存性を理論計算により求めた。その結果、活性層厚が8nmにおいてしきい値電流密が563A/cm2で最小(最適)となることが分かった。しかし、活性層厚が8nmの場合、量子井戸構造となり上記理論解析に量子効果を考慮する必要があることが分かった。そこで次に、上記理論解析に量子効果を導入し同様な理論解析を行った。その結果、活性層厚(量子井戸幅)が9nmにおいてしきい値電流密が311A/cm2で最小(最適)となることが分かり、先の量子効果を考慮していない場合と比べ250A/cm2程低しきい値で発振が得られることが予測された。これより、レーザ開発における理論検討において重要な進展が得られた。 次に、当該研究課題のレーザの基本材料であるZnCdSeの結晶性について調べた。分子線エピタキシー法を用いてInP基板上にZnCdSe層を成膜し、塩酸エッチングによるエッチピット密度(EPD)について調べた。ZnCdSeでは塩酸エッチングにより結晶内の欠陥に起因したエッチピットが出現し、その面内密度(EPD)により結晶欠陥密度が評価できる。ZnCdSeを様々な条件で成膜し、それらの諸特性とEPDの関係について調べた。その結果、ZnCdSe層の格子不整合度とEPDの間では明らかな相関は見られなかった。一方、ZnCdSeのフォトルミネッセンス発光特性とEPDの関係では、EPD、即ち結晶欠陥が少ない程発光強度が強くなる傾向があり、結晶性と発光特性の相関が見られた。以上より、結晶の高品質化に向けた重要な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該課題のレーザの開発に向け、レーザの理論解析を行った。但し、活性層を比較的単純なZnCdSe量子井戸としており、当該課題で想定しているZnCdSe/BeZnTe超格子活性層を用いたレーザの解析や構造の最適化は今後の課題である。また、発振波長も今回は590nm近傍の橙色だけであり、三原色発光の各々の波長におけるレーザの解析も今後進めて行く必要がある。 一方、レーザ結晶の高品質化に向け、ZnCdSeのエッチピット密度による評価を行った。ここでは結晶の他の諸特性との関係について調べ、今後の成長条件の最適化に有効であることを示した。 以上の様に、レーザ構造の最適化及び高品質なレーザ結晶の作製に向けた成果が得られており概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
レーザの理論解析及び構造の最適化では、今回は活性層を比較的単純なZnCdSe量子井戸としたが、今後は当該課題で想定しているZnCdSe/BeZnTe超格子活性層を用いた構造で検討を進めて行く。更に、発振波長についても三原色発光の各々の波長におけるレーザの解析にも取り組む。 一方、レーザを構成する各材料の開発において、今回はZnCdSeの結晶性評価について検討を進めた。今後は得られた知見を基にZnCdSeの高品質に向けた成長条件の最適化を目指していく。更に、他の構成材料であるZnCdSe/BeZnTe超格子やMgZnCdSe、MgZnSeTe等の結晶性向上やドーピング制御等についても調べ材料開発を進める。また、これら材料を組み合わせたレーザの作製にも着手し、レーザ実現に向けた検討を行う。これらに加え、レーザの一体集積化に向けてエッチングや電極形成等、プロセス技術の開拓を進める。以上の様に、当該研究課題である三原色レーザの開発に向けて着実に研究を推進して行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入物品の価格変動により予定価格と実価格で差が生じたため、当初計画していた予算に対し執行総額との間に軽微な残額が生じた。この残額は翌年度予算と合わせて執行し、購入物品の質及び量を調整する等、有効活用する計画である。
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